ソファーに寝そべりながらスマホをいじっていると、指輪の匂いを嗅いでいたドルーが考
え込むように首を傾げだした。

「もういいって、ドルー。警察に届けよ」

 そう声をかけた俺に、ドルーはウ~と小さく呻きながら、「違う。……知ってる匂い、も
う一個混ざってる。少しだけど……思い出せそうだけど……わからない……」と悩ましげに
答えた。

 知ってる匂い?と不思議に思ったけれど、どちらにしろもう指輪の追及はいい。俺は床か
ら指輪を拾いあげポケットにねじ込むと、話題を逸らすように「ドルー」と言って腕を広げ
た。ドルーはすぐにパァッと嬉しそうな表情になって、尻尾を振りながら俺の腕の中へ飛び
込む。頭やら首やら胸やら撫でまくってやると、生え代わりの毛がブワッと舞った。

「うわ、抜け毛すごいな。換毛期ってやつか。ちょっと待ってな」

 ソファーから立ち上がり犬用のブラシを取ってきて、ドルーの体をワシワシとブラッシン
グしていく。普段も二、三日おきにブラシをかけてはいるが、それでも塊で毛が抜ける辺り、冬毛から夏毛に生え変わっていくのを痛感する。

「ひゃー、いくらでも抜けるな。シャンプーもするか。――あ、でも今度の休みにドッグラ
ン行くから、その後にしよ。どうせ汚れるし」

 すると、おとなしくブラッシングされていたドルーが突然立ち上がってワン!と吠えた。

「どうした? ブラッシング痛かったか?」
「違う! わかった! わかった!」

 興奮気味なドルーの背を撫で、「落ち着け」とおすわりさせる。それでも尻尾を振ること
を止められないままドルーが言ったのは、驚くことだった。

「宮乃の指輪! ウェンディの匂いする!」
「ウェンディって……あのゴールデンレトリバーの?」

 目をパチクリさせる俺に、ドルーは鼻をフン!と鳴らして「そう! 間違いない! オレ
お利口!」とものすごいドヤ顔をしてみせた。