不機嫌そうな顔をした俺に、水町さんは「だって天澤くんがドルーさんの連絡先教えてくれないのが悪いんじゃん。セッティングしてくれないなら、連絡先教えて」と悪びれずに言う。
あきれてものも言えない。本当に水町さん変わった。以前はこんな失礼でも自己中でもな
かった。そこそこ付き合いも長いし友達くらいのつもりではいたけど、その認識を改めよう
と思う。正直もう関わりたくないし、ドルーを関わらせたくもない。
俺はズボンのポケットに手を突っ込むと、昨日拾った指輪を取り出して水町さんの前のド
レッサーに置いた。「なに?」と言った水町さんの表情が、指輪を認識した途端に真顔に変
わる。
「昨日、偶然海岸で見つけた。それ水町さんのだろ。俺はその指輪届けに来ただけだから、
じゃあ」
本来の用件だけさっさと告げて、踵を返し楽屋を出ていこうとした。すると。
――カンッ
小さなものが勢いよくぶつかった音が耳のすぐ横でして、俺は足を止めた。
床を見ると、さっき渡した指輪が転がっている。水町さんがこれを投げて、ドアにあたっ
たのだと理解した。
振り返ると、水町さんは指輪を投げた姿勢のままこちらを睨んでいた。
「……私のじゃない。持って帰ってよ」
その剣幕に、俺は驚きで一瞬呆けた。指輪が彼女のものではなかったとしても、どうして
そんなに怒っているかがわからない。
「あ……そうなんだ。ごめん、間違えたみたいだ」
これ以上、波風を立てたくなくて、俺はその指輪を拾ってポケットに再びしまうと「じゃ
あ」と、そのままドアを出ていった。
「これ、宮乃の。オレお利口だから、間違えない」
「でも違うって。怒って投げつけてきたよ」
その日の夜。帰宅した俺はドルーに指輪を見せながら今日の顛末を語った。
ドルーは何度も指輪をクンクンし、「宮乃の匂い」と自信満々に繰り返す。けど正直なと
ころ、俺は指輪の持ち主が水町さんかどうか、もうどうでもよかった。
散々失礼な態度をとったうえ指輪を投げつけてきた水町さんと、本当にもう関わりたくな
い。当然ドルーとは二度と会わせないし、指輪も警察に届けて後は知ったこっちゃない。も
う彼女と少しでも関係のありそうなことは避けたいというのが本音だ。
「あーあ、こんなことなら交番に届けておけばよかったなあ。また鎌倉の交番まで行くのは
さすがにキツいし……郵送でも受けつけてくれるかな」