「ドルーさん、日本語できるんだ! なーんだ! じゃあお喋りできるね。嬉しい~」
水町さんのテンションが上がっているのが傍目にもわかる。ドルーと会話できることがわ
かってますます好意を持ったのか、彼女はドルーに椅子を近づけ距離を縮めると、身を寄せ
合うようにしてメニューを広げた。
「なに食べる? 飲み物はワインでいいかな。一緒に乾杯しよ」
「あ! ドルーはアルコール駄目なんだ! あと食べ物も、その……アレルギーが多くて! だから水と、えーと……この温野菜と蒸し鶏のプレートでいいよな、ドルー!」
強引にドルーのメニューを決めた俺に、水町さんは「え~アルコール駄目なんだ~」と不
服そうだ。けど、ドルーが「鶏肉好き」と目を輝かせると、おかしそうに笑って「ドルーさ
ん、かわいい」とすぐに機嫌を直した。
それから、フォークを初めて使うドルーに俺は終始ヒヤヒヤしっぱなしだったけれど、そ
んな些細なことは気にならない雰囲気だったのは、幸か不幸か。
場は完全に水町さんのひとり合コン状態だった。甘えた声でドルーに話しかけ、ことある
ごとにボディタッチをし、頬を染めてドルーにだけなにかを耳打ちする。
はっきり言って、俺と新山くんは白けていた。マネージャーさんに至っては終始申し訳な
さそうにしていて、こちらの方がいたたまれない。
水町さんとはアイドルグループ時代からの知り合いで、それなり交流もしてきたけれど、
こんな失礼な子ではなかった気がする。少なくとも空気を読まずに男に媚びるような下品な
子ではなかった。
……そういえば先月だったか、ロミオくんが水町さんに宅飲みに誘われたと言っていた。
都合が合わなくて行かなかったらしいけど、ロミオくん曰く『最近、水町さんに誘われる共
演者多いみたいだよ』とのことだった。
ドルーが並外れた美形だからはしゃいでいるのかと思っていたけど、もしかして目をつけ
た男に手当たり次第にこんな態度なんだろうか。だとするとなんか痛々しいというか……彼
女を見る目がちょっと変わってしまうな。