ロケバスのフィッティングルームで着替えを済ませて出てきた俺に、水町さんがそう声を
かけてきた。その瞳は期待と高揚に爛々と輝いている。
「いや、俺たちは帰らないと……」
「どうして? この後まだ仕事?」
「そうじゃないけど用事が……」
「あ、だったらドルーさんだけでもどうかな。ほら、ロシア語できるADくんいたし、天
澤くんいなくても平気だよ。帰りは私が送っていってあげるしさ」
こちらがなんとかかわそうとしても、水町さんはがっつり食らいついてくる。ってか、俺
いなくていいんだ? 水町さんがドルーに興味あるのはわかってたけど、そんなあからさま
に俺を用なし扱いするのひどくない?
「ね、決まり! ドルーさーん!」
「あ、待って! 俺も行く!」
水町さんは勝手にドルーの参加を決めてしまい、スタコラとドルーに声を掛けにいく。ま
さかドルーひとりで参加させるわけにもいかず、俺たちは否応なしにみんなでの晩飯へと赴
くことになった。
場所はドルーのリクエストを聞いてもらえたので、ありがたくオーガニックレストランを
選ばせてもらった。中華料理店やカレー屋を選ばれてしまうとドルーの食べられるものがな
いので、よかった。
貸切った個室には、俺とドルーと水町さん、それに水町さんのマネージャーとロシア語の
喋れるAD新山くんの五人がいる。スタッフはこれから会社に戻って今日撮影した映像の
編集があるし、糟井さんはこれからもう一本仕事だ。っていうか新山くんも会社に戻らなく
ちゃいけないと思うんだけど、水町さんに強引に捕まったっぽい。
「えーと、ミニャ ザヴート 宮乃。オーチン ラート パズナコーミッツァ!(私の名前
は宮乃。お会いできて嬉しいです) で、合ってるかな? さっき新山くんに教わったの! 宮乃って呼んでね」
ちゃっかりドルーの隣に席を陣取った水町さんは、覚えたてのロシア語でキャッキャとドルーに話しかける。
どうしていいかわからないドルーは、指示を仰ぐように俺のほうをチラチラと見た。
「……少し喋っていいよ」
このままだんまりさせて新山くんにロシア語で話しかけられても困るので、少しだけ日本
語が喋れる設定にして、この場を切り抜けることにする。
ドルーは小さく頷くと、水町さんに向かって「宮乃。覚えた」とにっこり微笑んだ。今まで冷たささえ感じるほどクールだった面立ちが一転して人懐っこい笑顔になったことに、水町さんの頬が一瞬で薔薇色に染まる。すごい威力だ。……俺の目には、ワンコ状態のドルーが舌を出してる笑顔に見えるけど。
かけてきた。その瞳は期待と高揚に爛々と輝いている。
「いや、俺たちは帰らないと……」
「どうして? この後まだ仕事?」
「そうじゃないけど用事が……」
「あ、だったらドルーさんだけでもどうかな。ほら、ロシア語できるADくんいたし、天
澤くんいなくても平気だよ。帰りは私が送っていってあげるしさ」
こちらがなんとかかわそうとしても、水町さんはがっつり食らいついてくる。ってか、俺
いなくていいんだ? 水町さんがドルーに興味あるのはわかってたけど、そんなあからさま
に俺を用なし扱いするのひどくない?
「ね、決まり! ドルーさーん!」
「あ、待って! 俺も行く!」
水町さんは勝手にドルーの参加を決めてしまい、スタコラとドルーに声を掛けにいく。ま
さかドルーひとりで参加させるわけにもいかず、俺たちは否応なしにみんなでの晩飯へと赴
くことになった。
場所はドルーのリクエストを聞いてもらえたので、ありがたくオーガニックレストランを
選ばせてもらった。中華料理店やカレー屋を選ばれてしまうとドルーの食べられるものがな
いので、よかった。
貸切った個室には、俺とドルーと水町さん、それに水町さんのマネージャーとロシア語の
喋れるAD新山くんの五人がいる。スタッフはこれから会社に戻って今日撮影した映像の
編集があるし、糟井さんはこれからもう一本仕事だ。っていうか新山くんも会社に戻らなく
ちゃいけないと思うんだけど、水町さんに強引に捕まったっぽい。
「えーと、ミニャ ザヴート 宮乃。オーチン ラート パズナコーミッツァ!(私の名前
は宮乃。お会いできて嬉しいです) で、合ってるかな? さっき新山くんに教わったの! 宮乃って呼んでね」
ちゃっかりドルーの隣に席を陣取った水町さんは、覚えたてのロシア語でキャッキャとドルーに話しかける。
どうしていいかわからないドルーは、指示を仰ぐように俺のほうをチラチラと見た。
「……少し喋っていいよ」
このままだんまりさせて新山くんにロシア語で話しかけられても困るので、少しだけ日本
語が喋れる設定にして、この場を切り抜けることにする。
ドルーは小さく頷くと、水町さんに向かって「宮乃。覚えた」とにっこり微笑んだ。今まで冷たささえ感じるほどクールだった面立ちが一転して人懐っこい笑顔になったことに、水町さんの頬が一瞬で薔薇色に染まる。すごい威力だ。……俺の目には、ワンコ状態のドルーが舌を出してる笑顔に見えるけど。