目を開けると男の美しさはますます増して、俺はやけに緊張しながら「お、おはようござ
います」とぎこちない挨拶を返した。

 ……聞いてしまっていいんだろうか、「あなた誰ですか?」って。でも俺から誘ったんだ
としたら失礼だよな。こういうの初めてだから、どうするべきかわかんないんだけど。

 頭の中であれこれ考えていると、男は俺に顔を近づけてきた。もしかして目覚めのキスだ
ろうかと身を硬くしたけれど……そうではなく、なぜだか匂いを嗅がれた。
 男は鼻を押しつけそうな勢いでクンクンと俺の首筋や胸の匂いを嗅ぎ、「あれ?」と呟い
て離れ、不思議そうに小首を傾げた。そしてなにか思い出したように「あっ!」と叫んで満
面の笑みを浮かべる。

「そうだ! オレ、人間になったんだ! カナタ、見て! オレ、人間だぞ!」
「……は?」

 なんだろう、この人。突然変なことして変なこと言いだした。
 ……っていうか……聞いたことある口調だな。

「人間になったからオレも仕事行ける! これでカナタとずっと一緒だな!」

 男は彫刻みたいな顔を子供みたいに破顔させ、俺をぎゅうっと抱きしめてきた。身長百七
十三センチの俺は、大柄な彼の体にすっぽり収まってしまう。

「あはは! オレの方がカナタより大きい! カナタ小さいな!」

 ものすごくうれしそうに笑いながら、男は俺に頬ずりをし、俺の両手をニギニギと握り、
それから俺の頬を両手で挟んでモチモチと弄んだ。完全におもちゃにされている。

「あの、すみません。申し訳ないんですけど、俺、ゆうべのこと全然覚えてなくて……。え
っと、どちらさまでしょうか?」
「ドチラサマ?」
「えっと……あなた誰? Who are you?」

 相手のペースにのみ込まれてしまう前に、俺は勇気を出して尋ねた。男は青い目を見開い
てキョトンとしながら、「なに言ってるんだ? ドルーに決まってる」とますますわけのわ
からないことを言いだした。

「ドルーさん……ですか。本名?」

 うちの飼い犬と同じとか、からかってるんだろうか。それともまさか本名?
 疑わしい目で見ていると、男はムッと不機嫌そうな顔になった。

「カナタ、またオレのこと忘れたのか!? オレはドルー! カナタの一番の友達!」
「は?」