「カナタ! カナタ!」
「わっ、びっくりした!」

 ぼんやり考えていたところに急にドルーに顔を覗き込まれて、俺はソファーに座った姿勢のまま、驚いて仰け反ってしまった。

「見て! テレビにカナタ映ってる! おっきいカナタ映ってる!」

 ドルーは興奮した様子で、俺の膝に前脚を掛けて顔を近づけてくる。それを手で押さえながら視線を正面に映すと、ルームシアター並みに大きな大河内家のテレビ画面に、『BUDDY』のプロモーション映像が流れているのが見えた。

「オレ知ってる! これカナタのお仕事! 映画っていうお仕事! 敵と戦ってるカナタかっこいい!」

 最近、映像という概念を覚えたドルーは、俺とテレビを交互に見て、得意そうにワン!と吠える。それを見て大河内さんがおかしそうに笑った。

「ドルーにもこの映画のよさがわかるのか。利口だなあ、ドルーは」

 大河内さんが笑うと、リビングは明るい笑い声に包まれた。スタッフや事務所の仲間はもちろん、澪ちゃんと翔くんと奥さんも笑っている。

 こういった集まりにときどきドルーもお邪魔させてもらっているうちに、事務所の仲間内ではドルーはすっかり顔なじみになった。こんなふうにみんなが当たり前にドルーを輪の中に入れてくれることが、俺は嬉しい。

「カナタ、ニコニコしてる。なにか嬉しい?」

 尻尾をご機嫌に揺らしながら尋ねるドルーの頭を、俺はモフモフと撫でながら頷く。

「この場にドルーも一緒にいることが、嬉しいんだよ」

 小声でそう伝えればドルーは目を輝かせ、背伸びをして嬉しそうに俺の顔をベロベロと舐めた。

「ドルーかわいい。天澤さんとすごく仲良しだね」
「いっつもこんなに仲いいの?」

 大河内さんの両隣の席に座った澪ちゃんと翔くんの言葉に、俺は少しはにかんで答える。

「うん。家族だからね」

 大河内家のリビングに差し込む明るい日差しは、もう冬のものじゃない。ポカポカと温かい春だ。そんな温かいリビングに、たくさんの笑顔が咲く。

 大河内さん一家や、スタッフや事務所の仲間たち。それから――俺の大切な新しい家族の、ドルーの笑顔が。