そして大河内さんが身の潔白を証明しクリーンなイメージを取り戻したことで、映画は予
定より少々延期したものの、無事に公開となったのだった。

 大河内さんはあの後、澪ちゃんと翔くんと一緒に改めて俺のもとに謝罪に訪れた。あれか
ら姉弟がどうなったのかひそかに心配していたけれど、憑き物が落ちたようにすっきりした
表情のふたりを見て、安心した。

 父子で登山を始めたと、澪ちゃんと翔くんは嬉しそうに教えてくれた。まだまだ初心者だ
けど、グッズを買いそろえたり、次の休日にどの山に登ろうかと相談したりと、家族で盛り
上がってるという。
 俺を襲ったことを深く反省したという翔くんからは、以前のように拗ねた印象は感じられ
ず、悪い友達とは縁を切ったらしいと澪ちゃんがこっそり教えてくれた。

 ――大河内さんと子供たちの関係が修復できて、本当によかったと心から思う。

 ……思うのだけど、俺の中でひとつだけ引っかかっていることがある。
 それは、大河内さんの奥さんのことだ。

 例の澪ちゃんの入学式の写真。大河内さんは澪ちゃんの制服だと気づかなかったけれど、奥さんはどうだったんだろう。以前の大河内さんのようによほど家庭に関心がない親でなければ、きっと気づいていたと思うんだけど。

 ……これはもう、俺の想像でしかないけれども。奥さんは最初からあの騒動の犯人が澪ちゃんと翔くんだと知っていたんじゃないだろうか。知っていて、あえて傍観の立場を取っていたように、俺には見える。

 家庭に関心を向けない大河内さんの態度に傷ついていたのは澪ちゃんと翔くんだけじゃない、大河内さんと温かい家庭を築こうと奮闘していた奥さんもいっぱい傷ついてきたはずだ。

 彼女が憎しみから夫の身の破滅を願っていたのか、それとも澪ちゃんたちと同じように、大河内さんが入学式のことを思い出してくれることを願って黙っていたのか、それはわからない。

 ただ、澪ちゃんたちが俺を襲ったと知ったときの慌てぶりが演技だとは思えないので、子供たちが暴走することまでは予想外だったのだろう。……予想外だと信じたい。

 奥さんの心の内は闇の中だ、今さら根掘り葉掘り聞いて暴こうとは思わない。

 けれど、もしもこの件で大河内さんが心を入れ替えてくれなかったらと思うと、少しだけゾッとする。写真の真相を夫に教えようとしなかった奥さんは、もう覚悟していたんじゃないだろうか。この件で大河内さんが反省することがなければ、家庭が崩壊しても構わないと。

 ……そう考えると、今のこの温かい光景が本当に幸運に思える。大河内さんが心を入れ替えてくれて、よかった。

 大河内さんが言っていた『家族に甘えすぎてた』って言葉を思い出すと、なんだか家族って積み木でできた家みたいだなと思う。ひとりひとりの心がバランスを取って、家族の形を作っているんだ。ひとりだけ太くなったりはみ出したりしたら、積み木の家はバラバラに崩れてしまう。

 一緒にいるからこそ他の誰より大切にしなくちゃいけないんだ――なんて、ちょっと偉そうなことを思いながら俺は、奥さんや子供たちと笑みを交わし合って料理を運んでいる大河内さんを眺めていた。

 すると。