生まれて一度もペットを飼ったことのない俺が、昨日会ったばかりのシベリアンハスキー
を飼おうだなんて。考えが甘いって言われるかもしれない。状に絆されただけかもしれない。
考えなきゃいけないこと、解決しなきゃいけない問題もいっぱいだ。

 けど――それでも一緒にいたいって気持ちは本物で、きっとこれが〝縁〟ってものだと俺
は思う。神様が結んでくれた、奇妙で、けれどもとっても大切なもの。
 だから俺は考えるんだ。二十四歳、ひとり暮らしでそこそこ忙しいアイドルと、お利口で
甘えん坊なシベリアンハスキーの、新しい生活の形を。

「でも今日は……そろそろ寝よっか。さすがに眠くてしかたないや」

 俺は大きな欠伸をしてから、ソファーの上に置いてあった毛布を手繰り寄せ、ラグに横に
なった。風呂入ってないけど、明日の朝でいいや。今夜はさすがにクタクタだ。眠気がもう
限界。

「先に寝るよ。おやすみ、ドルー」

 手もとにあったリモコンで部屋の電気を消すと、ドルーがガムの残りを咥えたまま毛布の
中に潜ってきた。

「おやすみ、カナタ」

 寄り添ってきた大きな体は、今夜もフカフカで温かい。


 ――あの事件から、三ヶ月が経った。
 今日は大河内さんの家でスタッフや事務所の後輩を招き、『BUDDY』の公開記念のパー
ティーだ。俺はもちろん、ドルーも招待されている。

 大河内さんの広い家には大勢の仲間が集まり、みんな料理やお酒を楽しみながら
『BUDDY』の感想を言い合っている。見慣れた光景。けれど以前と違うのは、大河内さん
が奥さんと一緒に給仕の側に回っていること。それから、澪ちゃんと翔くんもこの場にいる
ことだ。

 一ヶ月前、ネットを一瞬騒がせた大河内務のゴシップは、本人と事務所が声明を出したこ
とであっさり収束した。
 大河内務は不倫も児童買春もしておらず、写真の女性は事務所の後輩と大河内の娘である。
記事を投稿した犯人は判明していて、世間を騒がせる目的でやったとの理由も明らかになっ
ているが、犯人は未成年のためプライバシー保護の観点から公表はしない。和解は済んでい
る。……というのが、オルビスプロが出した公式のコメントだ。

 もともと話題性が大きいだけで信憑性に欠けるゴシップだっただけに、公式声明が出たと
たん、世間はあっという間にこの話題を忘れた。