なんだ、そんな安全な場所があるなら、俺が無理して引き取ることはなかったじゃん。
 ……けれど、胸に湧いた安堵は、風に吹かれた蝋燭の火のように一瞬で消える。

「……やっぱ、いいです。大変かもしれないけど、引き取ることを決めたのは俺だし。それ
になんだかんだ情が湧いちゃって」

 ハハッと笑った俺に、四谷さんは「そうか。まあ、無理そうならいつでも言ってくれ」と
だけ言って、マフラーを巻いた。

「じゃあ俺も帰るな。明日は大河内さんの件でお前も社長に呼ばれると思うから、自宅待機
しててくれ。今日みたいにあっちこっち、ほっつき歩きにいくんじゃないぞ」

 なるべく出かけるなと釘を刺されていたのに散々出かけまくったことをチクリと責めら
れて、俺は「ごめんなさい……」と肩を竦めて頭を掻いた。

 四谷さんを玄関まで見送った俺は、リビングに戻りゴロンとソファーに横になる。

「あー……っ、疲れたあ!」

 横になって思いっきり伸びをすると、待ってましたと言わんばかりにドルーが上へ飛び乗
ってきた。

「ぐえっ、重っ! ドルー、みぞおちは駄目!」

 二十五キロの体重が急所にかからないように脚をどかすと、ドルーは俺の腹の上で体を伏
せた。フカフカの毛布みたいで、心地いい。

「なんだよ、甘えてるのか? 今日は忙しかったもんな。ドルーも疲れただろ」

 両手で背中をなでてやると、なんだか俺の方が安心した気分になった。ドルーのぬくもり
って、すごく落ち着く。
 けれどそんな俺とは逆に、ドルーはキュ~ンキュ~ンと悲し気な声で鳴いて鼻を押しつけ
てきた。

「どうした? もしかしてさっき四谷さんが言ったこと気にしてる? だったら大丈夫だ
よ。お前のこと、よそに預けたりなんかしないから」

 そう言って慰めた俺に、ドルーは青い目でこちらを見てから「違う」と呟いた。

「オレ、カナ以外の人の言葉はちょっとしかわかんない。でも、あの子供たちの話はうんと
悲しい気持ちになった。大好きな人が自分を好きじゃなかったら、うんと悲しい。オレもカ
ナがオレのこと好きじゃなくて、ずっと知らんぷりしてたら、うんとうんと悲しい……」

 ドルーの話を聞いて、俺はパチクリと目をしばたたかせる。

「お前……それで寂しくなっちゃったのか?」
「うん」