「うちの子が本当にとんでもないことをしでかした。すまない……償いようもない」

 大河内さんからは、動揺している様子が伝わった。きっと心の中は『どうして俺の子供が
こんなことをしたんだ』と、理解できない気持ちでいっぱいなのだろう。だって彼は自分が
子供たちに愛情を乞われ、憎まれていたなんて、これっぽっちも気づいていないのだから。

 頭を上げた大河内さんの視線が、俺から奥の廊下へ移された。振り返ると、四谷さんに背
を押され、澪ちゃんと翔くんがリビングから出てきたところだった。ドルーも、その脇につ
いて来ている。

「澪、翔……」と呼びかけたのは、奥さんの方だった。大河内さんの眼差しはひたすら戸惑
っている。

「四谷くん、きみにも迷惑をかけたね。誠にすまない」

 再び頭を下げた大河内さんに、四谷さんは「僕は奏多を守っただけですんで」と答えて、
澪ちゃんと翔くんの背中を押しやった。その顔には「僕に謝るより先に子供になにか言うこ
とはないんですか?」と書いてある。

 澪ちゃんと翔くんは玄関で靴を履くと、母親と一緒に改めて俺に「ごめんなさい」と謝罪
した。そして三人でひと足先に外へ出ていく。
 残された大河内さんは、明日、事務所にSNSの犯人が子供たちだったことを打ち明け、
社長や法務部も交えて話し合うつもりだということを、俺たちに告げた。そして。

「……正直なところ、自分でも情けないほどに困惑してる。俺は子煩悩じゃないが、暴力を
ふるったり外に女を作るような悪い父親でもなかった。仕事に真剣に向き合って、子供に誇
れる姿を見せてきたつもりだった。それなのにこんなことが起きて……理解ができない」

 そんな胸の内を、大河内さんは吐露した。
 四谷さんはとてもなにか言いたげだったけれど、口をへし曲げて噤んでいる。冷え冷えと
した玄関に少しの沈黙が落ちた。
 俺は……なにを言うべきなんだろうか。大きな迷惑をかけられたと責める? 監督責任が
行き届いてないと説教する? それとも、「俺は平気ですから気にしないでください」なん
て、偉そうに許しを与える?

 少し迷って、心の中で「どれも違う」と苦笑して、俺は背筋を伸ばしまっすぐに大河内さ
んを見つめて言った。

「俺、大河内さんのこと好きです。尊敬してます」