「『天澤ってやつ、調子に乗っててムカつくからちょっと驚かせてやろう』って翔が……。
だから、怪我とかさせるつもりはなかったんです。本当です」

 要は嫉妬だったわけだ、俺が襲われた理由は。やっぱりとばっちりではあるけれど……彼
らの事情を知って頭ごなしに怒る気になれなくなっている俺は、甘ちゃんだろうか。

「でも今日は怪我をさせるつもりだったよね? 金属バットなんて、一歩間違えれば命だっ
て奪いかねない」

 厳しい口調で四谷さんが咎めると、今度は翔くんが「……ごめんなさい」と拗ねたような
口調で謝った。

「だってこの人、家まで来るから……。ゆうべ襲った犯人が俺たちだってわかって、父さん
にチクりにきたと思って。ムカついたし、このまま放っておいたら警察にもチクられると思
ったから……」

 翔くんの言い分を聞きながら、俺と四谷さんは盛大なため息をついた。さすがにこれは同
情もできないし許す気も起きない。
 そんな俺たちを見て、澪ちゃんが翔くんの頭をぺしっと叩き、再び「ごめんなさい」と頭
を下げる。

「翔、中学入ってからちょっと悪い友達とつるんでて、影響されちゃって。止められなかっ
た私が悪いんです。ごめんなさい」

 そんなことは免罪符にはならないと思うけれど、つくづくふたりとも子供だな、とは痛感
する。思慮浅くて、自己中で、自分のしたことがどれほど大勢に迷惑をかけるかわかってい
ない、お子ちゃまだ。
 けど、だからこそ、子供には保護者が必要なんだ。そばに寄り添って、正しいことと悪い
ことを教え続けてあげる大人が。それを放棄してきた大河内さんの責任は、きっと重い。澪
ちゃんと翔くんを凶行に走らせた原因は、父親でありながら父親の役目を果たさずにきた大
河内さんにすべてあるのだから。

 そのとき、ピンポーンと家のインターフォンが鳴った。
 誰が来たのかはわかっている、大河内さんだ。家に着いてすぐ、ことの経緯とお子さんが
うちにいることを電話で連絡しておいたのだ。

 玄関に出迎えると、大河内さんと奥さんが神妙な面持ちで立っていた。
「大変な迷惑をかけてすまない」と、今まで見たこともない悲痛な表情で、深々と頭を下げ
た。その後ろで一緒に頭を下げている奥さんの表情はちょっと違っていて、どことなくあき
らめたような、すっきりした顔をしているように見えた。