ふたりの母親である大河内さんの奥さんも、子供が小さいときには家庭を省みて欲しいと
何度も懇願したが、無駄だったそうだ。
……大河内さんの家に窺うたびに、どことなく奥さんに覇気が感じられなかったのはそう
いうことだったのかと、俺は納得した。
後輩たちが訪問するとお茶を淹れ、食事を振舞ってくれるけれど、奥さんはいつも笑顔を
見せなかった。かといって不満そうな顔をするでもなく、ただ淡々と無心で自分の役目をこ
なしていたように見えた。
そうやって心を閉じていなければ、奥さんもきっとやりきれなかったのだろう。……今さ
らながら、そんな彼女に給仕をしてもらっていたことに罪悪感が湧く。
寂しさとか、虚しさとか、やりきれなさとか。そういったものをたくさん内包しながら、
大河内姉弟は生きてきたんだと思う。
そして抱えてきたそれらの気持ちをあふれ出させてしまったきっかけが……俺だったと
言うのだ。
『天澤とは初めての共演だったんですけどね、もう四六時中一緒にいたらかわいくって、か
わいくって。今ではまるで本物の息子みたいに思っているんですよ』
それは、映画の宣伝でバラエティ番組に出たとき、大河内さんが俺のことを語ったときの
言葉だ。
「ムカついた。すんげームカついた。なにが息子だよ、本当の息子には一度もかわいいな
んて言ったことないくせに、ふざけやがって!」と、翔くんは目に涙を浮かべて、激高した
口調で言った。
存在を無視され続けたあげく、赤の他人を息子のようだと褒められたのだ。翔くんの怒り
はもっともだと、同情さえする。
姉の澪ちゃんもまた同じ思いで、父親に激しい怒りを覚えた。そして十数年間の鬱憤が噴
出してしまったふたりは、初めて父親に〝攻撃〟する意思を抱く。
なにをして父親を困らせてやろうかと企んだとき、SNSに目をつけたのはいかにも子供
らしい。なんでもいい、デマを流して父親の評判をめちゃくちゃにしてやろうとふたりは計
画した。
そんなときに大河内家で後輩を招いたバーベキューがあり、運悪く真木さんが巻き込まれ
てしまったのだ。
澪ちゃん曰く、大河内さんが真木さんのお子さんを心配したのもムカつきポイントだった
らしい。……真木さんは本当になにも悪くないので、気の毒としか言いようがない。
何度も懇願したが、無駄だったそうだ。
……大河内さんの家に窺うたびに、どことなく奥さんに覇気が感じられなかったのはそう
いうことだったのかと、俺は納得した。
後輩たちが訪問するとお茶を淹れ、食事を振舞ってくれるけれど、奥さんはいつも笑顔を
見せなかった。かといって不満そうな顔をするでもなく、ただ淡々と無心で自分の役目をこ
なしていたように見えた。
そうやって心を閉じていなければ、奥さんもきっとやりきれなかったのだろう。……今さ
らながら、そんな彼女に給仕をしてもらっていたことに罪悪感が湧く。
寂しさとか、虚しさとか、やりきれなさとか。そういったものをたくさん内包しながら、
大河内姉弟は生きてきたんだと思う。
そして抱えてきたそれらの気持ちをあふれ出させてしまったきっかけが……俺だったと
言うのだ。
『天澤とは初めての共演だったんですけどね、もう四六時中一緒にいたらかわいくって、か
わいくって。今ではまるで本物の息子みたいに思っているんですよ』
それは、映画の宣伝でバラエティ番組に出たとき、大河内さんが俺のことを語ったときの
言葉だ。
「ムカついた。すんげームカついた。なにが息子だよ、本当の息子には一度もかわいいな
んて言ったことないくせに、ふざけやがって!」と、翔くんは目に涙を浮かべて、激高した
口調で言った。
存在を無視され続けたあげく、赤の他人を息子のようだと褒められたのだ。翔くんの怒り
はもっともだと、同情さえする。
姉の澪ちゃんもまた同じ思いで、父親に激しい怒りを覚えた。そして十数年間の鬱憤が噴
出してしまったふたりは、初めて父親に〝攻撃〟する意思を抱く。
なにをして父親を困らせてやろうかと企んだとき、SNSに目をつけたのはいかにも子供
らしい。なんでもいい、デマを流して父親の評判をめちゃくちゃにしてやろうとふたりは計
画した。
そんなときに大河内家で後輩を招いたバーベキューがあり、運悪く真木さんが巻き込まれ
てしまったのだ。
澪ちゃん曰く、大河内さんが真木さんのお子さんを心配したのもムカつきポイントだった
らしい。……真木さんは本当になにも悪くないので、気の毒としか言いようがない。