「よ、四谷さん! やりすぎ、やりすぎ! 相手子供なんだから加減して!」

 小柄なゴリラマスクの体をがっちり拘束する四谷さんをなだめつつも、俺は彼に協力を仰
いでおいてよかったと心底思った。
 犯人を今夜おびきだそうと考えた俺は、念のため四谷さんに連絡をして同行してもらって
いたのだ。
 自称「オルビスプロの守護神」を名乗っている四谷さんは、マメで面倒見のいい性格と裏
腹にバリバリの武闘派だ。スーツが弾けそうなほどのマッチョに、趣味で格闘技各種を嗜ん
でいる。

 犯人を誘い出す作戦を思いついたものの、襲われる可能性があるからボディーガードをし
てほしいと頼んだ俺に、四谷さんは『そんな危ない手段をとるな!』と初めは反対していた。
でも、オルビスプロと大河内さんの面目を保つためにはこの方法しかないと説得したところ、渋々ながら協力してくれたのだ。おかげで身を守るだけでなく、犯人の身柄を拘束できた。

 ところが、一瞬安心しかけた俺たちの隙を突いて、怪獣マスクの方が身を翻して逃げ出そ
うとした。

「コラ! 仲間を置いていくのかよ!? 待て!」

 慌てて追いかけようとした俺の手からするりとリードが抜け、ドルーが全速力で怪獣マス
クの背を追いかける。

「ドルー! 噛むなよ!」
「わかった!」

 あっという間に怪獣マスクの前に回り込んだドルーは、凶暴そうな声でガウガウ!と吠え
たてる。怪獣マスクは「いやっ! 来ないで!」と怯えた様子で足をすくませ、最後はその
場にしゃがみ込んで「もうやだぁ!」と泣き出してしまった。

 俺はその場に駆けつけ、リードを握り直して「もういいよ」とドルーの背をなでる。
 そして体を硬く丸めて泣く彼女に手を伸ばし、かぶっていた怪獣マスクを外した。

「……やっぱり」

 マスクの下から現れた顔を見て、呟きが漏れる。ベソベソと幼児みたいに泣いているその
顔は、記憶にかすかにあった大河内さんの娘さんと一致した。

「奏多」

 バットとゴリラマスクを取り上げ、四谷さんが少年の腕を掴んでこちらへ連れてくる。そ
の少年の顔もまた、俺の予想した通り……大河内さんの息子さんのものだった。