俺の想定している犯人が、こちらの罠にかかってくるかどうかはわからない。
 そもそも昨日襲われたばかりの人間が、あえて夜中にほっつき歩くことを宣言するなんて、どう考えても罠だ。けど、犯人は今きっと焦っている。冷静な判断ができない可能性は十分にあった。

 こちらの投稿を見てから犯人が動き出し移動してくるまでの時間を考え、三十分してから
家を出る。そして昨日と同じ、家から駅を結ぶルートを歩き出した。

 時間はまもなく二十四時。住宅街は昨日と同じように静まり返っている。
 すっかり下がった気温は俺とドルーの吐く息を白くし、晴天の夜空で星を鮮やかに瞬かせ
ていた。

「冬の大三角形が見える。ほら、わかるか? ドルー」

 俺は夜空を見上げながらドルーに話しかけて、その場にしゃがみ込んだ。目の前には――
昨日通り魔が飛び出してきた公園。
 いくらなんでもわざとらしかっただろうかと少し恥ずかしくなったとき、公園からふたつ
の人影が姿を現した。
 昨日と同じ、ゴリラと怪獣のゴムマスクをかぶった子供と思わしきふたり組。昨日と違う
のは、その手に持っているのがプラスチックのバットじゃなく、金属バットだということだ。

「うわっ、物騒なもん持ってきたな」

 さすがに一瞬ビビったけど、俺は立ち上がってふたり組の前に対峙する。

「……俺はあんたたちが誰だかわかってるよ。けど、警察に突き出すつもりはない。ただ、
あの投稿がデタラメで大河内さんが潔白だってことを証明して欲しいだけなんだ」

 そう話しかけると、ふたり組は無言のまま顔を見合わせていた。どちらも戸惑っているよ
うに見える。
 やがて、怪獣のゴムマスクの子が「もうやめようよ……」と小さい声で言うと、ゴリラマ
スクの方が手に持っていたバッドで地面をガァン!と叩いた。

「うるせえ、ばーか! 警察にでもなんでも突き出せばいいだろ! お前も父さんも、芸能
界なんてみんなめちゃくちゃになっちまえばいいんだ!」

 そう叫んでゴリラマスクはバッドを振りかぶると、まっすぐに俺に向かってきた。
 とっさに身構える俺の背後から大柄な人影が飛び出し、バットを振り下ろそうとしたゴリ
ラマスクの腕を掴む。そして鮮やかな一本背負いを決め、そのまま腕ひしぎ十字固めの体勢
に持ち込んだ。

「いで! いでででで!」
「このクソガキ! うちの奏多を襲おうとしやがって!」