俺が慌てて手を前に突き出して振ると、大河内さんは頭を上げてから、「ああ」と頷いた。

 例の騒動の写真、大河内さんの車に乗っていた女性が誰かを俺は知っている。というか、
事務所の人間ならみんな知っている。
 女性は真木由宇さん。新人……とはいってもアラサーでうちに入った女優の卵だ。まだデ
ビューはしていない。
 女優を目指すには少々スロースタートだけど、かなり光るものがあるということでうちの
入所テストに合格し、今はレッスンに励んでいる。彼女の素質は大河内さんも目をかけてい
て、何度か事務所以外でも会ったりしていた。

 ただし、事務所以外で会っていると言っても決してやましいことはないと、俺は断言でき
る。大河内さんが後輩の育成に力を入れていることは有名で、彼はプライベートな時間まで
費やしてとことん後輩たちの面倒を見て回っているのだ。大河内さんがレッスン室でふたり
きりで演技の練習をすることも、飲みにいって朝まで相談を受けることも、そして自宅に招
いて食事を振舞って元気づけることも、うちの事務所・オルビスプロダクションの人間なら
ばみんな知っている。

 だから大河内さんと真木さんがふたりきりでいてもなにも不思議はないし、そもそも……
あの写真が撮られたとき、俺は近くにいたのだ。

 二週間ぐらい前だったと思う、大河内さんはいつものように後輩を自宅に招いて食事を振
舞っていた。俺と真木さんと……全員で十人くらいはいただろうか。
 その日は庭でバーベキューをしていて、宴もたけなわになった頃、真木さんが急に帰ると
言い出した。真木さんには小さいお子さんがいるのだけど、その子が熱を出したと家から連
絡があったのだ。
 そして急ぐ真木さんを気遣い、大河内さんが車を出して自宅まで送ってあげた……という
のが、この写真の真相だ。写真のふたりの服装がそのときのものなので、間違いない。

「真木のことは事務所には説明してあるし、納得もしてもらってる。公式に声明も出すつも
りだ」

 それならば世間の誤解を解くのは容易そうだと安心しかけたけれど、大河内さんは眉間に
しわを寄せて言葉を続けた。

「けど、もう一枚の写真がなあ……心当たりがないんだ」

 それを聞いて、俺はポカンとした。
 もう一枚の写真に写っていたのも、たしかに大河内さんだった。しかも、昔のものという