考えているうちに、勝手に涙が滲んできた。ひと晩一緒にいて情が移ってしまったんだろうか。ドルーを失うかもしれないことが、胸が痛むほど悲しい。

 預かりを申し出た俺に、職員の人は快く手続きをしてくれた。飼い主が見つかった場合の
連絡先を提供し、警察へ取得物として届けを出すことも教えてくれた。それから。

「あと、すいませんが犬ってどうやって飼えばいいか教えてもらえますか?」

 ペットを飼ったことのない知識ゼロの俺が、まずなにをすればいいかも教えてもらった。


 保健所の人に紹介してもらってやって来たのは、動物病院だ。
 犬を飼うには狂犬病予防のワクチン接種が必須らしい。ドルーは鑑札がついていなかった
ことを考えると接種していない可能性があると、保護センターの人が言っていた。
 それに獣医さんに診てもらえば大体の年齢もわかるらしいし、ノミやダニがついていない
かも調べられるとのことだ。
 ……俺、ノミとかなんにも考えずにドルーのこと家に入れて、一緒に寝ちゃったんですけ
ど。

 なんだか今さら体がかゆくなってきた気がしてわき腹をボリボリ掻きながら診察の様子
を眺めていたけれど、獣医さんはドルーの体を隅々まで見て「ノミもダニもいませんね。綺
麗な体してますよ」と褒めてくれた。

 獣医さんの見立てではドルーは一歳になったばかりらしい。体重は二十五キロ、骨格から
考えるとさらに大きくなると思われる。シベリアンハスキーの中でも大きい方だそうな。も
ちろん性別は雄。

 病院に入る前に「いい子にしてろよ」と言っておいたせいで、ドルーは診察中も終始おと
なしかった。ただ、不思議そうにキョロキョロとしていたあたり、ここがなにをする場所な
のかはわかっていないようだった。――けれど。

「痛い!」

 予防注射の針が首に刺された瞬間、ドルーはキャイン!と情けない鳴き声と共に、「痛い」
と叫び声もあげた。それを聞いて俺の心臓がドキリと跳ねる。
 しかも注射がよっぽどショックだったのか、ドルーは俺との約束をすっかり忘れ、キャン
キャンと鳴きながら「やだ! こいつ嫌い! こいつ怖い! カナ助けて!」と人語で喋り
続けた。