正直、俺としてはとばっちり感は否めないけれど、大河内さんを恨む気はこれっぽっちもなかった。むしろ、彼には罪悪感など覚えないで欲しい。
【ありがとうございます。大河内さん、今どうしてます?】
四谷さんにそうメッセージを送ると、すぐに返信がきた。
【ひとまず自宅で待機してもらってるよ】
それを見て、俺は頭の中で今日の予定を立てた。嬉しくない急なオフだけど、やることは
いっぱいありそうだ。
午前九時。
俺は近所のホームセンターの開店時間と同時に家を出た。リードと首輪を買うために。
さすがにリードなしで大きなシベリアンハスキーを連れ回すわけにはいかないので、ドル
ーには留守番しててもらった。行って帰ってくるまで三十分も掛からないとはいえひとりで
留守番させるのは不安だったけど、ドルーはゆうべの毛布が気に入ったらしく、くるまって
おとなしく寝ていた。
「ほら、ドルー起きな。これつけてやるから」
買い物を終え帰宅した俺は、さっそくドルーに首輪をつけてやる。銀色の体毛に映えるか
と思いボルドーカラーの首輪を選んだけど、モフモフの首の毛に埋もれてしまってほとんど
見えなくて、俺は苦笑をこぼした。まあ、なにはともあれ、これでドルーを外に連れ出せる。
「これでよし。出かけよう、ドルー」
ドルーの準備が整ったところで、さっそく次の用事を済ませに出かける。首輪にリードを
繋いで玄関へ向かうと、ドルーはさっきまで眠そうだった顔を活き活きとさせて、跳ねるよ
うにウキウキと歩いた。
「お出かけ! カナとお出かけ!」
犬が散歩好きというのは知っていたが、シベリアンハスキーは特に運動が大好きというの
は、さっきホームセンターのペットコーナーで得た知識だ。シベリアンハスキーのゲージに
そう貼ってあった。
「ドルー、外に行く前にひとつだけ注意。外ではおしゃべりはなしね」
玄関で靴を履きながらそう言うと、ドルーは「なんで?」と言わんばかりにキョトンとし
た目を俺に向けた。
「人間と喋れる犬なんてヤバいからだよ。悪い人に捕まって見世物にされたり、解剖された
りしちゃうかもしれないぞ」
ドルーはいまいちよくわからないといった感じで首を傾げていたけど、「カナがそう言うなら守る。カナはオレのリーダーだから……」と、物分かりのいい様子を見せた。