「……ほんと、ひっどい一日だったよ。お前が助けにきてくれたことだけが、救いだな」
ハハッと笑ってみたけれど、返事はなかった。どうやらドルーはすっかり寝入ってしまっ
たようだ。電気を消して真っ暗になったリビングに、虚しい笑い声と、続けて吐き出されたため息が静かに響く。
「……気持ち、切り替えなくちゃな。チャンスなんてきっとまたすぐに来るし」
自分に言い聞かせながら、ドルーの体を撫でる。フカフカの手触りが、気持ちを少しだけ落ち着けてくれる気がした。
「……カナ、がんばれ……」
「ん?」
吐息のようにかすかに聞こえたのは、気のせいだったのか、それともドルーの寝言だったのか。俺は小さく笑って、ドルーの頭を二、三度撫でてからゆっくり目を閉じた。
「カナ、起きて。起きろ。お腹が減ったぞ」
翌朝、俺は目覚ましより早くドルーに起こされた。ドルーは器用に前足で俺の体を揺らし、湿っぽい鼻の先をグイグイと押しつけてくる。
まぶたを開いたら、目の前にフカフカの狼みたいな顔があったことに一瞬驚いたけど、すぐに気を取り直し、上体を起こして枕もとのスマホを手に取った。
「……七時か。お前、早起きだなあ」
昨夜寝た時間が二時を過ぎていたことを思うともう少し眠っていたかったけれど、空腹を訴えているドルーを無視するのもかわいそうなので起きることにする。
立ち上がって伸びをすると、ドルーは嬉しそうに俺の周りをウロウロした。
「ご飯かあ。ドルーの食べられるものあるかなあ」
毛布を畳んでからキッチンに入った俺は、冷蔵庫の中を見ながらスマホで『犬 食べられるもの』と検索した。犬なんてチョコとネギ以外ならなんでも食べられるんじゃないかなくらいの認識でいたけど、牛乳でさえNGだったことを思うと考えを改めなくてはならない。
俺は検索結果と冷蔵庫の中身を見合わせながら、幾つかの材料を取り出した。
料理は得意だ。仕事上、健康と美容に気を遣わないといけないこともあって自炊を心掛けている。
必要な材料を手早く切って鍋に入れ火にかけているうちに、俺は洗顔と着替えを済ませてきた。だんだんと部屋に漂っていくいい匂いに、ドルーは俺の足もとにまとわりつきながら尻尾を振りっぱなしだ。