旅先に北海道を選んだのは正解だった。まるでそんな俺の気持ちを受けとめるかのように、北海道の空も大地も大きかったのだから。

 一面の銀世界、そして抜けるような青空。右を見ても左を見ても一面の雪景色に、ドルー
はもちろん、俺も大興奮だった。

「うわあー! すごいよ、ドルー! 雪と樹しかない!」

 宿泊するのは小樽にあるペット同伴可のペンション。そこのご主人に勧められ、俺とドル
ーはペンションの裏手にある広大な丘へとやって来た。雪原と呼ぶにふさわしいそこは地平
線が見えるほど広大で、雪と樹以外なんにも見えない。圧巻だ。

 正月休みの行楽シーズンが終わったばかりだからか他に人はおらず、この果てしない白い
大地に俺とドルーだけなのがまた感激だ。

「走っていいか!? うーんと走っていいか!?」

 舌を出して尻尾をブンブン振って興奮気味のドルーに俺は頷くと、首輪からリードを外し
てあげた。

「いいよ、思いっきり走っておいで」

 そう言うと、ドルーは弾丸のような速さで雪原を駆け抜けていった。足が雪に埋もれるの
も物ともせず、真っ白い飛沫を跳ね上げて駆けていく。その逞しく美しい姿に、俺はしばし
見惚れ続けた。

「やっぱりシベリアンハスキーに雪は似合うなー……」

 目を細め、そんなことを呟く。すると地平線の彼方まで行ってしまったかと思ったドルー
が、こちらへ駆け戻ってくるのが見えた。「カナター!」とハイテンションで突進してくる
ドルーは雪まみれでとても楽しそうで、俺も思わず満面の笑みになる。

「ドルー!」

 そう叫んでドルーの突進を受けとめた俺は、その勢いのまま後ろへすっ転んでしまった。
ドルーと一緒に雪にまみれ、そろって大声で笑う。ドルーは嬉しそうに俺の顔をペロペロと
舐めていた。

 ――懐かしい、と思った。どうしてだかわからないけれど。妙なノスタルジックが湧き上
がって、俺は一瞬混乱する。
 けれど、すぐにその原因がわかった。夢だ。いつか見た夢に、とても似ている。――もっ
とも、その夢の内容もよくは覚えていないんだけど。

「冷たいけど気持ちいいなあ」

 笑いながら俺は体を起こし、コートに着いた雪をパンパンと払う。見渡す雪原が、夕日に
染まりだして芸術的な光景を生み出していた。