俺を抱きしめる腕に、力が籠もる。ドルーは「カナタ……」と何度も呟きながら静かに泣
き続けて、俺は彼が落ち着くまでずっと、銀色の髪を撫で続けた。


 ――それからふた月が過ぎた、一月。
 季節はすっかり冬になり、ドルーと出会った日から一年が経った。

 ドルーはあれからしばらく元気を失くしていたが、徐々にいつもの明るさを取り戻してい
って、俺はホッとした。
 どうしてあのとき取り乱すほど泣いたのか、『お菊はオレと同じだ』と言っていたけど、
結局どういう意味だったのか。後日改めて聞いてみたけれど、ドルーは悲しそうな顔をして
俺を抱きしめるだけだったので、それ以上追及することはやめた。

 ……俺の勝手な推測だけど、もしかしたらドルーは大事な人を亡くした経験があるんじゃ
ないかと思う。前の飼い主だろうか? だとするとドルーは幼かっただろうから記憶はあや
ふやで、けれど悲しい感情だけが心に残り続けていたのかもしれない。きっと飼い主の死と
向き合うお菊に自分の姿を重ね、その感情が蘇ったのだろう。

 俺と会ったとき、ドルーは前の飼い主のことをよく覚えていないみたいだったけど、そう
いう事情があって独りぼっちになっていたのなら、すごく可哀想だ。改めてドルーを幸せに
してやらなくちゃと思うと同時に、いつかもし前の飼い主のことがわかったら、その人のも
とへお参りに行こうと思う。「小さかったドルーを育ててくださってありがとうございます。これからは俺がドルーを独りぼっちにさせないよう、一緒に生きていきます」って報告するために。


 一月の半ば、俺は遅れて取れた正月休みを利用してドルーと北海動へ旅行にやって来た。
 ドルーを喜ばせたい気持ちもあったし、自分自身を元気づけたい思いもあった。正直、久
宝さんが亡くなったことは俺にとってやっぱり悲しくて。けど、いつまでも沈んでいるのは
俺らしくないから、気持ちを上向きにさせたかったんだ。

 人生楽しいことばかりじゃない。乗り越えなくちゃいけない悲しいことだってある。けど、その経験のすべてが人生の、そして役者としての糧になるって教えてくれたのは久宝さんだから。俺はその教えをしっかり胸に抱いて、上を向いて進もうと思う。