「……オレは、この気持ちを知ってる。大切な人の命の火が消えていくのを、見続けること
しかできなかった。なにもできなかった。助けられなかった。一緒に死ぬことしかできなか
った。あんなに大好きだったのに……!」

 感極まったように語気を強めて言葉を吐き出したドルーに、俺も陽一さんも驚きを隠せな
い。俺は必死にドルーの背を撫で落ちつかせようとしたが、彼の号泣は止まらなかった。

「やっとわかった。お菊はオレだ、オレと同じだ。カナタを見ていたときのオレと同じだっ
た……。なにもできなくて悔しくて、悲しくて、苦しくて……。思い出した、あのときの気
持ち。オレはもう二度とあんな思いしたくない……!」

 ドルーの言っていることが理解できなくて、頭が混乱する。わかるのはただ、ドルーが今
ものすごく大きな悲しみと後悔を抱えていることだけだ。

「ごめん、カナタ……なにもしてあげられなくて。ごめん……。今度は絶対に助けるから…
…絶対にオレが助けるから……」

 しゃくり上げるほど泣いて、ドルーはぎゅうっと俺を抱きしめた。俺よりはるかに大きい
その背を抱きしめ返し、もう片方の手でヨシヨシと頭を撫でる。

「すみません、ちょっと友人が取り乱しているみたいなんで……。落ち着かせてからあちら
の部屋に戻らせてもらっていいですか?」

 振り返ってそう聞くと、陽一さんは「あ、はい」と少し困惑した様子で頷いて、部屋から
出ていった。
 ドアが閉まるのを見てから、俺は改めてドルーの背を、強く抱きしめ返す。

「よくわかんないけど、落ち着いて。大丈夫だよ、ドルー。俺はなにも困ってないよ。だか
らそんなに泣かないで。ドルーに昔なにがあって、なにを後悔してるのかはわからないけど。今のドルーは俺にとって一番大切な存在で、なにかをしてもらわなくても十分助けられてるよ。ドルーがいるだけで毎日楽しいし、元気になれるんだ」

 その慰めが正しいかはわからない。それでも俺は、ドルーをこの得体の知れない悲しみか
ら救ってやりたくて必死だった。
 ドルーは俺の肩口に顔をうずめ、グスグスとしゃくりあげる。「カナタ……オレを置いて
いかないで……独りにしないで……」と訴えてくる声が、掠れていて痛々しい。

「しないよ。ずっと一緒だ、約束する。ドルーと俺は、ずっと一緒だ」