箱の乗ったテーブルが置かれていた。
その光景を見て、俺は頭を殴られたようなショックを受けた。小さな箱の前には皿に入っ
た煮干しと、線香の立てられた香炉が置かれている。
「あの……」
振り返って掠れた声で聞くと、陽一さんは部屋の中に進み入り立派な厚紙で出来た箱のふ
たをそっと開いた。ドライアイスが入っているのかひんやりとした空気が漂う箱の中には、
ピンク色のブランケットの上で人形のように固まって動かないお菊が収まっていた。
「大叔母が亡くなったときには、同じように息絶えていたそうです。どちらが先に亡くなっ
たのかはわかりませんが。大叔母のベッドの足もとで息を引き取ったみたいですよ」
そう説明する陽一さんの声が遠くに聞こえる。頭が真っ白になって、言葉が出ない。
久宝さんの死は、きっと遠くない日に訪れるだろう予感があった。認めたくはなくても、
その日に向けて心構えが無意識にできていたんだと思う。それに対して不意に訪れる死の衝
撃は大きい。俺はお菊がこの世からいなくなることなんて、これっぽっちも考えていなかっ
た。
「……どうして? 病気だったんですか?」
震える声で尋ねた俺に陽一さんは「僕は一緒に住んでいないので詳しいことはわからない
んですけど」と前置きをして答えてくれた。
「老衰じゃないのかなあ。十三年だか十四年だかそれくらい飼われてたみたいだし」
「十四年……」
そんなに長い年月を、お菊は久宝さんと過ごしていたのか。
ふたりが長くかけがえのない年月を刻んで、同時にその生を終えたのだと思うと、俺はこ
らえきれなくなって再び泣き出してしまった。
もう知ることはできない、久宝さんとお菊がどんな絆を結んできたのかを。けれどペット
と主人がどれほどお互いを大切な存在として、幸福な時間を過ごしてきたかは、きっと俺に
もわかる。だからこんなに胸が苦しくて切なくて、涙が止まらないんだ。
そのとき。隣に立っていたドルーが顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
驚いて「ドルー?」と一緒にしゃがんで背を撫でようとした俺は、彼の様相にギョッとす
る。
青い瞳からはとめどなく涙が流れ、その顔はどこか遠くを見つめているような虚無を感じ
させた。
「大丈夫か、ドルー?」
心配して声をかけた俺に、ドルーはまるで独り言のように呟いた。
その光景を見て、俺は頭を殴られたようなショックを受けた。小さな箱の前には皿に入っ
た煮干しと、線香の立てられた香炉が置かれている。
「あの……」
振り返って掠れた声で聞くと、陽一さんは部屋の中に進み入り立派な厚紙で出来た箱のふ
たをそっと開いた。ドライアイスが入っているのかひんやりとした空気が漂う箱の中には、
ピンク色のブランケットの上で人形のように固まって動かないお菊が収まっていた。
「大叔母が亡くなったときには、同じように息絶えていたそうです。どちらが先に亡くなっ
たのかはわかりませんが。大叔母のベッドの足もとで息を引き取ったみたいですよ」
そう説明する陽一さんの声が遠くに聞こえる。頭が真っ白になって、言葉が出ない。
久宝さんの死は、きっと遠くない日に訪れるだろう予感があった。認めたくはなくても、
その日に向けて心構えが無意識にできていたんだと思う。それに対して不意に訪れる死の衝
撃は大きい。俺はお菊がこの世からいなくなることなんて、これっぽっちも考えていなかっ
た。
「……どうして? 病気だったんですか?」
震える声で尋ねた俺に陽一さんは「僕は一緒に住んでいないので詳しいことはわからない
んですけど」と前置きをして答えてくれた。
「老衰じゃないのかなあ。十三年だか十四年だかそれくらい飼われてたみたいだし」
「十四年……」
そんなに長い年月を、お菊は久宝さんと過ごしていたのか。
ふたりが長くかけがえのない年月を刻んで、同時にその生を終えたのだと思うと、俺はこ
らえきれなくなって再び泣き出してしまった。
もう知ることはできない、久宝さんとお菊がどんな絆を結んできたのかを。けれどペット
と主人がどれほどお互いを大切な存在として、幸福な時間を過ごしてきたかは、きっと俺に
もわかる。だからこんなに胸が苦しくて切なくて、涙が止まらないんだ。
そのとき。隣に立っていたドルーが顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
驚いて「ドルー?」と一緒にしゃがんで背を撫でようとした俺は、彼の様相にギョッとす
る。
青い瞳からはとめどなく涙が流れ、その顔はどこか遠くを見つめているような虚無を感じ
させた。
「大丈夫か、ドルー?」
心配して声をかけた俺に、ドルーはまるで独り言のように呟いた。