俺の知る限り、大河内さんはとても誠実な人だ。彼が女性に対して下心のある接し方をしているのなんか見たこともないし、そういったスキャンダルも今まで一度もない。一緒に飲
みにいったときも大河内さん行きつけのバーや小料理店で、キャバクラやガールズバーみた
いなところには一度も行かなかった。
けれどだからこそ、そんなクリーンな大河内さんのイメージが今回は仇になってしまった
部分もある。女性問題とは無縁そうな大河内さんが、不倫と未成年売春という爛れたスキャ
ンダルと結びついたことに、みんな興味津々なのだ。
俺は、大河内さんがこんな馬鹿なスキャンダルを起こしただなんて信じていない。マネー
ジャーが言うには本人も否定しているらしいし、事務所もそのスタンスだ。
けれど、この記事が嘘である証拠を出し、犯人を突きとめ、なぜこんなデタラメを投稿し
たのか動機を解明するぐらいしなければ、世間は納得しないだろう。
ましてや児童売春は犯罪だ。濡れ衣を晴らせなかったら大河内さんは犯罪者となってしま
う。そうなれば当然――映画は公開中止だ。
事務所は今日の午後、『BUDDY』の公開未定を発表した。
大河内さんが犯罪者ではないことはもちろん、もとのクリーンなイメージを取り戻さない
限り、封切に踏み出す危険は冒せない。
マネージャーは泣き出しそうな顔で俺に「お蔵入りも覚悟しておいてくれ」と言った。
……大河内さんが悪くないことはわかってる。悪いのはSNSに投稿した奴だ。けど……
こう言ってはなんだけど、俺は完全にとばっちりだ。
芸能生活六年目。初めての映画出演、そして準主演。一気に知名度を上げ人気芸能人の仲
間入りする最大のチャンスだった。それが目の前で崩れていく。
悔しい。あんなに頑張った日々はなんだったのか。
それに、俺だけじゃない。監督も出演者も現場が一丸となって、作り上げたんだ。それが
ひとりの客の目にも触れず、永遠に陽の目を見ないかもしれないだなんて。
どこの誰だか知らないやつの、たかがSNSの投稿で、俺たちの努力の結晶は風前の灯火
だ。信じられない。こんな理不尽が世の中にあっていいのだろうか。
悔しくて悲しくて納得いかなくて、俺は今日一日、涙目で口をへの字に曲げて過ごした。
受ける予定だった映画のインタビューや取材も、白紙になった。
そんな最悪な一日を終えて帰宅しようとした俺を、さらなる最悪が襲った。帰宅途中の道で、ふたり組の通り魔に襲われたのだ。――ドルーが助けてくれたおかげで、被害は側溝に足を突っ込んだだけで済んだけれど。