忙しい彼女の手を煩わせるだろうからやたらと訪問するべきじゃないと思っていたけれ
ど、それは逆だったようだ。ヘルパーさんが休んだだけで身動き取れず生活必需品の買い出
しにさえ行けなくなってしまう美沙子さんには、わずかでも久宝さんを見ていてくれる人が
必要だ。俺は他人だし介護の知識もないけれど、短時間の見守りやおしゃべりの相手くらい
ならできる。

「もしよかったら、俺、久宝さんとおしゃべりしてますから。美沙子さん、カフェでお茶で
もしてきてください」

 図々しいかなと思いつつ言ってみたら、美沙子さんは思いのほか喜んでくれた。介護はた
くさんの人が少しずつ負担した方がいいって言うし、俺も久宝さんとのんびり時間を過ごし
たりおしゃべりできるのは嬉しい。それが、俺が久宝さん宅をしょっちゅう訪れるようにな
った理由のひとつ。

 もうひとつの理由は、ドルーの頼みだからだ。相変わらずドルーはお菊の様子を気にして
いる。俺としてはお菊を見ているときのドルーはなんだかつらそうだから、あまり久宝さん
の家に連れていきたくはないんだけれど……、大好きなドッグランに行くことをあきらめて
までお菊の様子を見に行くと言うのだから、聞いてやらないわけにもいかない。
 なぜかを聞いても以前と同じで、ドルー曰く「気になるから」だ。本人も自分の気持ちを
うまく説明できないっぽい。

 それらの理由で俺とドルーはこのひと月、何度も久宝さんのお宅を訪れては、久宝さんと
お菊を見守った。ドルーがつらそうなことを除けば、俺はこの時間は全然嫌ではないどころ
か好きだったけれど……だんだんと胸に切なさが込み上がってきたのは、もう冬が目の前の
十一月のことだった。

 俺がお見舞いに行っても、久宝さんはいつも寝ているようになった。美沙子さんが言うに
は、最近はもうほとんどこの状態らしい。食事もほぼ摂れず、栄養剤と水分の点滴がつけら
れるようになった。久宝さんがゆっくり天に召されていくのを、肌で感じずにはいられなか
った。

 責任感か情か、わからない。俺は休日以外にも仕事の前やスケジュールの合間に久宝さん
に会いに行った。押しかけにも近い俺の行動を、美沙子さんは一度も嫌な顔をせず受け入れ
てくれた。
 久宝さんはずっと寝ていた。穏やかに、静かに。そして彼女の窓越しの傍らには、いつも