それからドルーは心なしか少し元気がないように見えたけれど、食欲も普通だし、やがて
いつもの調子も取り戻したので、俺は特に気にしていなかった。
 だから翌週、「次の休みはどこに遊びに行こうか」と聞いた俺にドルーが「久宝の家に行
きたい」と答えたときには、本当にびっくりしたんだ。

「なんで? 久宝さんの家っていったって、こないだドルーは車から降りてないじゃん。そ
れなのになにがあるの?」

 驚いたせいで捲し立てるように聞いてしまい、すぐにハッとした。ドルーはなんとなく困
ったように視線を逸らしながらも、「お菊のことが気になる」と理由を俺に告げた。……や
っぱりそうか、と納得するとともに戸惑いも覚える。

「……どうしてか、聞いてもいい? お菊のなにがそんなにドルーの気にかかってるの?」

 俺の質問に、ドルーは言葉で返さずキュ~ンと鳴いた。答えたくない、というよりはどう
言っていいかわからず困っているみたいだ。

「よくわからない。でも、気になる。思い出すと苦しくて怖くなるのに……頭の中からずっ
と離れない」

 これってなんなんだろう。単純な好奇心というわけではなさそうだ。ドルーの様子を見る
限り、少なくとも明るい感情ではない気がする。

 俺は腕を広げてドルーを抱き寄せると、彼の不安を払しょくさせるように背中を撫でなが
ら話した。

「ドルーがそう言うなら、お菊の様子見にいこう。美沙子さんに聞いてみるから、今度はお
前も人間になって一緒にお宅まで行こう。でも、久宝さんや美沙子さんの負担になるから駄
目って言われたら、車の中から見るだけで我慢しような?」
「うん。ありがとう、カナタ」

 相変わらずの換毛期で、抱きしめた俺の服は毛だらけになったけれど。それでも俺はドル
ーの尻尾が左右に揺れるようになるまで、ずっとドルーを抱きしめて撫で続けてあげた。


 美沙子さんだって忙しいだろうし、さすがに悪いなと思いつつ訪問の伺いを立てたけれど、答えは思いのほか快諾だった。

 休日、人間になったドルーを連れて久宝さんのお宅へお邪魔すると、出迎えるなり美沙子
さんは少し申し訳なさそうに言った。