近くのコインパーキングに車を停め、四谷さんに『着きました、一番近いパーキングにい
ます』とメッセージを送って待つこと五分。四谷さんの車が同じ駐車場に入ってきた。

 車から降りた俺は四谷さんと合流し、さっそく久宝さんのお宅に向かう。久宝さんの家は
この駐車場の真横だ。隔ててあるブロック塀越しにも、三階建ての大きな家が見える。
 俺は車を振り返り、ドルーに向かって「ここだよ」と口パクしながら久宝さんの家を指さ
した。後部座席の窓にはフィルムを貼ってあるので俺からドルーの様子はわからないが、ま
あ、見てたら伝わっただろう。

 インターフォンを鳴らすと、対応してくれたのは壮年の女性だった。久宝さんのご息女と
のことで、綺麗な形で微笑む口もとがどことなく久宝さんに似ている。結婚して一度は家を
出たけれど、久宝さんが倒れたことをきっかけに旦那さんと相談して県外からこの家に移り
住んできたそうな。久宝さんはひとりで身の回りのことがほとんどできない状態で、彼女―
―美沙子さんが介助しているという。

「お母さん、事務所の方が来てくださいましたよ」

 そう言って美沙子さんが通してくれた部屋は、一階の最奥にある日当たりのいい和室だっ
た。十畳くらいだろうか、ゆったりと広い部屋には季節の花を飾った床の間があり、障子を
開いた窓からは庭の池と松の木が見える。そんな風情のある部屋の中央に、久宝さんはいた。
薬と吸い飲みの置かれたサイドテーブルと転落防止用の柵に囲まれた、介護用ベッドの上に。

「こんにちは、久宝さん。天澤です」
「ご無沙汰いたしております、オルビスプロの四谷です」

 俺たちが部屋に入っていくと、久宝さんはふわりと華やかな笑みを浮かべた。その笑顔は
〝桜スマイル〟と呼ばれる彼女の若い頃からのチャームポイントで、今もその魅力は健在だ。
――たとえそれが、俺の記憶の中よりはるかに痩せ細り、深く皴の刻まれた土気色の顔をし
た久宝さんであっても。

「タカちゃん、遅かったじゃない。もうみんなとっくに帰っちゃったわよ」
「え?」

 ニコニコとした久宝さんが、俺に向かってそう話しかける。キョトンとしていると、椅子
を持ってきてくれた美沙子さんが一音一音を区切るように久宝さんに説明した。

「違いますよ、お母さん。こちらは事務所の後輩の方で天澤さんですよ。昔一緒に共演されたでしょう」