お父様が一月ぶりに帰ってきたので、ひさしぶりに家族全員でお茶会を開くことにした。お父様とお母様とフランソワとわたし。4人揃うのが当たり前なのに、当たり前がくすぐったい。フランソワは厳しいことを言うお父様を苦手に思っているけれど、きっとお父様の気持ちも理解しているはずだ。だって、彼女はわたしの妹なのだから。

今日のお茶は、お母様の花園で採れたピンクの花を煎じたもの。花蜜の甘い香りと、薄く色づいた湯が可愛らしい。お母様が手塩にかけて育てた花達は、こうしてお茶になったり、屋敷のあちこちの花瓶に引越しをしたりする。花園の作業を手伝うのはフランソワの持ち分、お茶にしたり花を生けるのを手伝うのはわたしの持ち分。昔はお母様の隣で見ているだけだったのに、いつからかお母様は、わたしやフランソワの傍で微笑んでいるだけになった。振り向いたら音もなく消えてしまいそうで、わたしは時たま、お母様の手を握りたくなるのだった。

水面から立ち昇る湯気が、ゆったりと過ぎる時間に流されていく。お父様のお仕事の話、お母様の飼っている小鳥の話、フランソワの木登りの話、わたしの好きな本の話。あんなにたっぷりとあったお茶も、いつの間にかなくなってしまって、お茶が尽きたらこの時間も終わってしまう気がして。こんなに楽しいのに、ちょっぴりだけ寂しくなった。

今日のお茶受けは、果物を砂糖で漬け込んだもの。お父様が東洋から取り寄せた、珍しい果物の砂糖漬けで、白い果肉が薄緑色の薄くてしっかりした皮に包まれている。形はりんごのようであるが、食感はそれよりもざらざらしていて、舌触りはあまり良くない。しかし、独特の香りはあっさりしていて好みである。この果物が生で手に入るなら、もっと正確に味や香り、食感が分かるのだろうが、なにぶんかなり遠くからやってくるのだから、砂糖漬けになっているのは仕方がない。

あとで果物の想像図と、味や香りのメモを紙に残しておかないと。