「そうなんですか。これ、小さいときからのお気に入りなんです」
「ふーん。似合ってるもんね」
「似合ってますか?」

 スザンヌは一度下ろした手をもう一度髪飾りにあてて嬉しそうにしていた。よっぽどお気に入りなんだろうな。

「ケビンさまは今も蝶がお好きですか?」
「蝶は好きだよ。特に魔法蝶」
「私も魔法蝶が好きです。だって、光る宝石みたいだから」

 スザンヌは俺を見上げると、嬉しそうにはにかんだ。

 調理実習室にはあっという間に着いた。美少女との時間って言うのは時間の尺が違うんじゃないかと思う。
 
「魔法蝶か好きなら魔虫研究所に併設された蝶園がおすすめだよ」

 別れ際、俺は魔法蝶が好きだというスザンヌに、蝶園のことを教えてあげた。スザンヌは少し考えるように小首を傾げ、パッと目を輝かせた。

「昔、ケビンさまが光る魔法蝶を見せてくれた場所ですね? 今日の放課後行ってみようかしら? ありがとうございます、ケビンさま。少しですがご一緒できてとても嬉しかったです」

 スザンヌは笑顔で俺にお礼を言うと、調理実習室に消えていった。

「昔、俺が光る魔法蝶を見せてあげた?」

 俺は呆然としてスザンヌを見送った。

『わぁ、宝石みたいね』

 脳裏に魔法蝶を見て笑うぽっちゃりとしたあの子が思い浮かんだ。だいぶ太さに差はあるが、猫みたいな目には面影がある気がする。薄茶色の目に薄茶色のふわふわの髪だったのもスザンヌと一緒。

「え? もしかして……」

 俺は今頃になって、自分とスザンヌが昔出会っていた可能性に思い当たったのだった。


    ◇ ◇ ◇


 淑女科が調理実習したあとはいつも男子生徒達に緊張が走る。気になる子が誰に作ったお菓子をあげるのか、誰もがアンテナを張り巡らせているからだ。

「フレッドさま、よかったらどうぞ」
「あ、ずるいわ。フレッドさま、私のも!」

 俺の隣では早くもいつもの光景が繰り広げられ始めた。なんでこんな奴性格が悪い奴がモテるんだ? やっぱり世の中、顔なのか? とつくづくこの光景を不思議に思う。負け犬の遠吠えって思われるのが目に見えているから、口には出さないけどな。

「スザンヌー。スザンヌは誰にあげるの?」