これはオタクな二人組の『美少女に見つめられたい願望』が都合の良い解釈を行っているに違いない。なぜならば、先ほど俺はスザンヌには誤解を解いておいたのだ。
 


 それは遡ること数時間前のこと。

 お互いよく知り合いたいだとか、最初はお友達からとか、まるで告白するみたいな事を言われたが、それで舞い上がるほど俺の頭はお花畑じゃない。
 なぜならば、俺は自分自身を平凡中の平凡であると知っている。とにかく、こんな美少女にある日突然告白されるなんて有り得ない。

「スザンヌ嬢。君は()()って言ったけど、俺と君は初対面だろう? 人違いだと思う。それに、僕と親しくなってもフレッド達とは親しくなれないよ?」

 スザンヌから声を掛けられたとき、俺はスザンヌにそう教えてやった。スザンヌはとても傷付いた顔をしたけれど、フレッドを紹介できなくて後から役立たず呼ばりされると俺もさすがにヘコむ。

「そうそう。こいつ隣の席にいるだけで俺らとは友達でもなんでもないから」

 フレッドは俺を見下すように横から口を出してきた。
 こんな冴えない奴にスザンヌが興味を持つわけないだろうと、その表情がありありと語ってる。悔しいが事実としてそうだから何も言い返せない。
 コイツ、確かに見た目はいいのかも知れないけど性格が悪いから俺は嫌いだ。スザンヌは戸惑ったようにフレッド達に視線を移動させた。

「俺はフレッド=アルティス。よろしくね、かわいこちゃん」
「えっと、よろしくお願いします」

 フレッドが手を差し出したのでスザンヌもおずおずと手を差し出した。するとフレッドは習いたての騎士の礼に従い、跪いて指先にキスを落とした。

 クラスメートの女の子達から黄色い悲鳴が上がった。最近授業で習ったという騎士科の男子達のこの所作に、大抵の女子はイチコロだ。
 スザンヌは少し涙目になって顔を赤くした後、逃げるように自席に戻っていった。


    ◇ ◇ ◇


 家に帰ると、俺は自宅近くにある親父が所長を務める魔虫研究所に向かった。小さなころから通っているのですっかり顔馴染みの入口の護衛は、挨拶すれば顔パスだ。

 何か面白い研究成果はないかと研究所内をうろついていると、たまたま執務室から出てきた親父に遭遇した。