「その、イルゼが赤ちゃんを抱いていたのが羨ましくて。イルゼは赤ちゃんが一番の贈り物だと言ってました。とっても可愛くて天使みたいなんです」

 学園でクラスメートだったイルゼは、ロベルトと結婚した。たしか、数カ月前に子供が生まれたと言っていたっけ。
 最初は二人で過ごしたいと子作りは後回しにしていたけれど、結婚して一年経つのだから確かにそろそろ頃合いかも知れない。

「俺の子を生んでくれるの?」
「もちろん生みたいです。ケビンさまに似た子が欲しいです」
「俺はスザンヌに似た子がいいな」

 平凡な見た目の俺より、美人なスザンヌに似た方が良いに決まってる。俺の見た目は相変わらず中の中だ。不思議なことに、スザンヌにとっては違うらしいが。

「ケビンさまに似た方が絶対に素敵です」

 俺の答えに少し拗ねたように口を尖らせるスザンヌに愛しさがこみ上げる。

「ご希望のままに。俺の可愛い奧さん」

 スザンヌをお姫さま抱っこするのも、フレッドのせいで鍛えているので難なく出来るようになった。そう考えると、あいつと毎日のようにやり合うのも悪くないな。

 一年後、スザンヌは彼女によく似た可愛らしい女の子を生んだ。目に入れても痛くないって言うのはこういう事なんだなって初めて知った。
 赤ん坊は俺からスザンヌへの贈り物であると同時に、俺がスザンヌから貰った一番の贈り物にもなった。

 そして俺は相変わらず毎日のように魔導師として仕事をして、マークと特訓して、フレッドと勝負して、ロベルトに治癒されて、家に帰れば大切な家族が待っている充実した日々を過ごしてる。それに、魔虫の世話もやっぱりしている。

「この子もケビンさまみたいに気の利いた素敵な贈り物を贈って下さる優しい方と結婚して欲しいですわ」

 休日に家族で蝶園を訪れると、スザンヌは様々な色に光る魔法蝶を眺めながら微笑んだ。

「そうだな」

 俺はスザンヌの抱っこする赤ん坊の頬を撫でると、スザンヌには唇に触れるだけのキスをした。
 彼女に出会ってから、俺の世界は確実に(いろど)りを増した。いつか、七色に光る蝶をつくってスザンヌにプレゼントしてやりたい。今度こそ、スザンヌをイメージした魔法蝶を。

 彼女の勘違いはこれからもずっと続きそうだ。