「嵩にきる爵位がそもそもねーだろ」

 馬鹿にしたようにせせら笑うフレッドを、マークはハァッとため息を付いて真っ直ぐ見据えた。

「フレッド=アルティス。伯爵家の分際で侯爵家の俺を小馬鹿にするな。そもそも、この学園では身分差別を防ぐため侯爵家以上の身分がある者は皆本当の家名を伏せて別のものを使っている。そんなことも知らなかったのか?」

 驚愕で目を見開くフレッドとそれを睨みつけるマークを見ながら俺も「え? そうなの?」と思わず独りごちてしまった。
 だが、知らないのは他のギャラリーも同じようだ。そもそも侯爵家以上の爵位持ちなんて滅多にいないしな。周囲はざわめきだした。

「それに、お前の最近の目に余る行動で、周囲も距離を置き始めている。周りからどう思われているか少しは考えたらどうだ?」

 フレッドが周囲を見渡したとき、クラスメートを始めとする学生達は皆冷ややかな目でフレッドを見ていた。

「嘘だろ……」

 自分に向けられたその軽蔑の眼差しに、フレッドは呆然と立ち尽くした。

「え? マークさまのお宅って侯爵家なの??」
「私は最初からマークさまが一番素敵って知ってたわよ」
「フレッドさまってよくよく見ると大して格好良くないわ」
「騙されたって感じよね。それに引き換えマークさまは素敵だわ」

 一方のフレッド親衛隊、いや、もはやなんなのかわからない女子集団のお喋りは留まることを知らない。
 ついさっきまでフレッド至上主義だったくせに女ってのは思考回路がどうなってるんだ? デカい声で喋り続けるこいつらがあまりにも辛辣かつ容赦なさすぎて、全く関係ない俺まで魂をゴリゴリと削られる気分だ。
 俺は女の恐ろしさを感じて恐怖したのだった。

「マークさま、次の試合頑張って下さい?」

 一人の元・フレッド親衛隊員がマークに駆け寄る。マークはその子を見てにこりと微笑んだ。

「ありがとう。でも、俺は君たちのような節操のない女子と馴れ合うつもりはない。君の応援は不要だ」

 冷ややかなマークの言葉に近寄っていった元・フレッド親衛隊員の表情がサッと固まる。
 休憩時間の闘技場には一人呆然と立ち尽くすフレッドと、少し離れた場所には学園の生徒中に節操の無い女として曝された女子達だけが残されたのだった。


    ◇ ◇ ◇