だが、マークの打撃とそれほど差があるようには感じなかった。なんとか受け止めると次の打撃に備えて剣をすぐに構え直す。同時に呪文の詠唱を始めた。

『地・水・火・風・光の精霊達よ 我の願を聞き給え』

 中級魔術師になれば、この前置きの詠唱は不要だ。もどかしいが、俺のレベルではまだ必要になる。
 詠唱の間もフレッドの打撃は容赦ない。明らかに押しているフレッドを見てフレッド親衛隊の女達は黄色い歓声をあげていたが、当のフレッドの顔には焦りが見えた。俺が一発でも自分の打撃を受け止めるとは思っていなかったようだし、呪文の詠唱を始めたことに気づいたようだ。

「くそっ、こいつ」

『火の精よ、我に力を与えよ。燃え盛る炎よ。我が矢となれ』

 再びフレッドの打撃が正面から来る。木刀で受け止めると腕がビリビリッと痺れて、力が抜けそうになるのを必死に堪えた。なんて力なんだ。

『火球打』

 最後まで呪文の詠唱が終わった瞬間、頭と同じ位のサイズの火の玉が俺の目の前に現れ、至近距離のフレッドめがけて放たれた。目を見開いたフレッドは咄嗟に顔を両手で覆う。

「きゃー、フレッドさまが!!」

 黄色い声が悲鳴に変わった。
 だが俺にも余裕はない。俺と同様、フレッドも対魔術用の怪我防止防護ブレスレットをしているはずだ。恐らく熱さを感じるだけでダメージを与えるような怪我はしてない。なので、今のうちに剣を打ち込む必要があった。
 俺は先ほどのフレッドの猛攻で既に痺れはじめていた腕に気合いで力を込めた。

 火球から身を守るために両腕を顔の前でクロスしていたフレッドの脇腹は完全に開いていた。俺はその脇腹めがけて思いっきり木刀を打ち込んだ。

「ぎゃあぁぁ!」

 いくら騎士科とは言え、無防備な状態で脇腹に打撃を食らえばそのダメージは計り知れない。フレッドは悲鳴を上げて倒れた。

「そこまで。勝負あり。勝者、ケビン=サルマン!」

 審判をしていた他のクラスの学生が試合終了の合図をしたので俺はホッと息を吐いた。

「勝った……」

 マークの言うとおり五分五分、むしろそれ以下だった。
 剣術は明らかにフレッドが上だったから、五数える時間で終わると思った呪文の詠唱は結局三十数えるぎりぎりまでかかった。俺は負けてもおかしくなかったのだ。今回はフレッドが魔術に関して完全に無防備だったから助かった。