「上手くできなかったらケビンさまが飾って下さいますか?」
「もちろんだよ」

 俺だって蝶々結びくらいはできる。俺が微笑みかけると、スザンヌは嬉しそうに微笑んで俺の胸にきゅっと抱きついてきた。

 俺は今、世界で最も幸せな男に違いない! 今ならフレッドどころか魔王が来ても勝てる気がするぜ。

 そんなアホなことを思いながら、俺はスザンヌの華奢な背中にそっと手を回した。
 
 
    ◇ ◇ ◇


 学園祭の前日、俺はマークから最後の特訓を受けていた。

 騎士科なだけあって、相変わらずマークの剣術の技量は俺より数段上だ。これが物語ならレベル一の冒険者が死に物狂いに努力して、二ヶ月でぐんぐん実力を伸ばし、ラスボスをコテンパンにするって展開もありがちだ。だが、現実はそんなに甘くない。相変わらず俺はマークに負け続きだった。

「ケビン、だいぶ良くなったよ。明日は頑張れよ」

 今日も十戦十敗で唇を噛む俺の背中をマークはバシンと叩いた。

「未だにマークの攻撃を三十数える間しか持ちこたえられない。大丈夫かな」

 思わず弱気になった俺をみてマークはハハッと笑った。

「俺は騎士を目指していて、それで身を立てようとしてるんだ。そう簡単に俺より剣が強くなられたらこっちが困るよ。そもそも騎士科を相手に三十数える間持ち堪えられるのが大したもんだぜ?それに、今ケビンは魔術を使ってないだろ?」

 俺はマークを見て頷いた。この一ヶ月、剣術だけで無く攻撃系の魔法を詠唱する時間を短縮することにも心血を注いできた。だいたい五数える時間が稼げれば俺の詠唱は終わるはずだ。だが、マークには剣を習うことを主軸にしているので一度も攻撃系の魔法は使っていない。

「ケビンは自分が思ってるよりずっと強くなったと思うよ。正直、初めて手合わせしたときは駄目かもって思ったけど、今はうまく魔術を使えれば五分五分だと思う。ただ、ケビンの剣の腕だとフレッドを持ちこたえるのはせいぜい三十数える間が限界かな」
「……駄目かもって思ってたのか」
「そりゃあ、ね。だって、そもそも剣の構え方からして、おかしかったし」

 マークの遠慮のない駄目出しに俺は思わず苦笑した。
 きっと、思ったことを正直に言ってくれているんだろう。と言うことは、勝負が五分五分と言うのもマークの正直な見解なのだと感じて、俺は改めて気合を入れた。