こんな感じのなんの取り柄もない俺だが、見合いの話は定期的に来る。ほぼ全てが裕福な商人の娘だ。名ばかり子爵でも貴族との繋がりができることは、平民の商人にとってはとてつもないメリットがあるようだ。
 ごくまれに没落して借金まみれの貴族からも申し込みがあったりする。

 俺はそんな裏事情をよく知らなかったし、最初の頃は喜んで相手と会っていたさ。だって、誰かから「是非うちの娘を」なんて言われたら、嬉しいだろう?
 でも、すぐにその裏事情には気が付いた。そして、毎回毎回、初対面のときの相手のちょっとがっかりしたような表情にいたたまれなくなってきて、いつしか見合いの話がきても会うのはやめた。

 だいたいだな、釣書と姿絵は先に先方に送ってあるんだぜ?
 あいつらは俺が貴族と端くれだってだけで、実は会ってみたらサファイアの瞳に銀の髪の麗しい騎士候補生が現れるとでも期待していたのだろうか? 
 もしくは碧い瞳に金の髪の見目麗しい貴公子とか?

 とにかく、俺はそのどちらでもない、ただの地味なオタクなわけだ。


    ◇ ◇ ◇


 その日学校に行くと、今日は友人のロベルトが来ていないことに気付いた。そういえば、週末にいい石が手に入ると言っていたっけ。
 友人のロベルトの趣味は魔法石収集だ。いい石が手に入ると寝るのも忘れて磨き上げている。そして、そんな日の翌日は大抵ロベルトは遅刻してくる。

 俺とロベルトは同じ魔術科だし、オタクな趣味持ちな極めて平均的な奴同士ということでとても気が合うんだ。

 結局、ロベルトは始業チャイムが鳴っても姿を現さなかった。

「今日から転校生がクラスの仲間入りします」

 教室に入ってきた担任のリチャード先生は俺らを見渡した。
 俺はおやっと不思議に思った。季節はずれの転校生は珍しい。なんでも親の仕事の都合で外国に住んでいたが、この度、事情があって転校してくる本人だけが先に帰国してきたらしい。

 おずおずと教室の前のドアから入ってきた女の子を見たとき、クラスの空気が変わった。

 端的に言うと、転校生の女の子は滅茶苦茶可愛かった。薄い茶色の大きな瞳に茶色のふわふわした長い髪、頬はピンク色で唇もピンク色だった。その全てが完全なる黄金比で配置されていて、人形かと思うほどだった。