絶対にフレッドに負けたくない。その一心で毎日特訓に取り組んでいる。
 マークによると、フレッドはマークと互角か、やや強いくらいらしい。今のままでは間違いなく負ける。
 なので、俺は剣の勝負は分が悪いと見て得意の魔術で戦う事にした。そもそも、魔導師って言うのは魔術メインで戦う戦士だしな。

 だが、問題は魔術を使うには熟練の魔術師、魔導師でない限りは呪文の詠唱が必要なことだ。特に俺みたいな駆け出し魔術師だと殊更(ことさら)詠唱する呪文が長い。この詠唱時間を持ちこたえられるかどうかが勝負の鍵になる。

 三十、いや、十数える間だけでもいいんだ。
 それだけでいいからフレッドの攻撃を持ちこたえたい。そのためにマークに毎日ボコボコになるまで扱かれている。

 毎日毎日付き合ってくれるマークには本当に感謝の言葉しかないな。

 俺の手のひらの怪我を見て悲しそうな顔をするスザンヌの気分を変えたくて、俺は明るく笑いかけた。

「今日、蝶園を見に行く? 例のやつがいるよ」
「え? 本当ですか?? はい、見たいです!」

 スザンヌは俺の顔を見上げると、パッと表情を明るくして嬉しそうに微笑んだ。俺はスザンヌの手をとると、その手をひいて蝶園に向かった。

「わぁ、本当に紫だわ!」

 スザンヌは蝶園の夕闇エリアでその魔法蝶を見つけると、感嘆の声をあげた。
 魔法蝶の発光色は羽の色とはまた異なる。紫の模様がある魔法蝶はこれまでもいたが、紫の光を放つ魔法蝶はいなかった。

 俺が作り出そうとしていた紫の光を放つ魔法蝶は、試行錯誤の末になんとかそれらしきものが出来上がっていた。とは言っても、赤と青の斑でほんの少し部分的に紫ががっているだけだ。

「まだ完全じゃないけど……。気に入った?」
「はい、とっても。ケビンさま、素敵なものを見せて頂きありがとうございます」

 スザンヌはにっこりと微笑む。そして、まばたきをしてから俺をじっと見上げた。何とも言えない甘い空気が俺達の間に流れた。

 薄暗い中に色とりどりの幻想的な蝶が舞っていて雰囲気はバッチリだ。
 こういう時、恋人同士なら何をする? 恋愛偏差値ゼロから十くらいにはなったはずの俺は勇気を振り絞ってスザンヌの両肩に手を置いた。