出場するのは騎士科と魔術科の生徒全員だ。騎士科はともかくなぜ魔術科が? と入学当時は不思議だったが、これは魔術科が魔術師だけでなく魔導師の育成も手掛けているかららしい。

 魔導師というのは剣よりも魔術をメインに使って戦う戦士のことだ。
 熟練の魔導師は本業の騎士が十人掛かりで襲いかかっても太刀打ち出来ない程強いという。現に、一昨年の武道会の優勝者は魔術科の学生だった。

「ごめんごめん。でも、フレッドは俺と同じかそれ以上に強いよ。どうする? まだやる??」

 俺に一撃を入れてきた騎士科の同級生、マークは申し訳なさそうに肩を竦めて尻もちをついたままの俺を見下ろした。

 マークはあの日の俺達の騒ぎを目撃していて、俺に特訓を申し入れてくれた。
 他人の恋人でも平気で口説いたり、身分差別を禁止する学園内で下位貴族や平民を馬鹿にしたような態度をとるフレッドの事を、流石に目に余ると思っていたようだ。

「まだやる。当たり前だろ」

 俺は汗を拭うと、もう一度立ち上がった。

「そう来なくっちゃ。ケビンは最初の受け身で安心しちゃって、いつも次の受け身の体勢まで隙がでるんだ。相手から目を逸らすなよ」
「ああ、気を付ける」
「あと、握力が弱いのが気になるな。剣がぶつかり合ったときに握りが緩んでる」
「……少しでもましになるように努力する」

 マークのアドバイスはまだまだ続いた。俺は悔しさから唇を噛み締めた。今のままでは確実に負ける。あと二ヶ月と少ししかない。それまでになんとか強くなりたいと、俺は焦燥感に駆られた。


    ◇ ◇ ◇
 

 学園からの帰り道、スザンヌはそっと俺の手を持ち上げると、その手のひらを指でなぞった。手を繋いだときに違和感を覚えたようだ。
 俺の手は最近の特訓のせいで豆だらけになっていた。ロベルトに言えば簡単に魔法で治癒できるが、治癒しない方が皮が厚くなって結果的に豆ができにくくなるのでそのままにしている。そのせいでところどころ皮がめくれて血が滲んでいた。

「ケビンさま、あまり無理なさらないで下さいね」

 俺の手の豆を確認して、スザンヌはきゅっと眉根を寄せた。俺はそんなスザンヌに笑いかける。

「大丈夫だよ。マークに扱かれてるけど、絶対にフレッドに勝ちたいからさ。あいつ、ちょっと痛い目にあった方がいいんだ」