きっといつもみたいに何人かいる恋人の一人といちゃついているんだろうと思い、そこを通り過ぎようとしたとき、閉じ込められている女の子が視界に入り俺は動きを止めた。スザンヌだ。

 俺の心臓はバクバクと煩く鼓動を打ち始めた。

 まさか、スザンヌは俺の気持ちをもてあそんで遊んでいただけで本命はやっぱりフレッドなのか?

 焦る気持ちを抑え、俺は息を潜めて二人にそっと近付いた。

「これはスザンヌにとって光栄なことだと思うよ。去年、僕のパートナーになりたくて女の子達が大喧嘩してね」
「それはフレッドさまがちゃんと恋人をお一人に絞らずに不誠実な態度をとるからです」
「僕は優しいから、できるだけ多くの女の子達の期待に応えたいと思ってる。以外と大変なんだよ。だけど、今年はこうやってスザンヌに絞ろうとしてる」
「私は……まだ誘われてはおりませんが一緒に行きたい人がいます」
「……は?」

 顔は見えないが、フレッドの声が一段低くなって剣呑さを帯びた。
 途中からしか聞いていないが、恐らくフレッドは学園祭の最後に開催される舞踏会のパートナーをスザンヌに迫っているようだ。俺は体を少し乗り出す。スザンヌの体にぴったり寄り添う位に密着したフレッドを見て頭に血が上った。

「やめろよ!」

 自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
 フレッドがこちらを振り返り、俺の顔を見て舌打ちした。その拍子に緩んだ拘束からスザンヌが体を滑り出し、俺の元へと駆け寄る。

「私、ケビンさまとご一緒したいんです。だからフレッドさまとはご一緒できません!」

 騒ぎ気付いた教室を移動中の学生達がざわざわと集まり始める。フレッドは階段をゆっくりと降りてきて、俺達の方へ近付いてきた。

「スザンヌ。たまに変わり種をつまみ食いしたくなる気持ちは俺にもよくわかるよ。けど、いい加減でやめておかないと彼は本気にしちゃうよ?」

 フレッドはまずスザンヌににっこりと笑いかけてそう言った。
 悔しいが、男の俺でも惚れ惚れするような綺麗な笑みだ。そして、今度は俺の方を見て馬鹿にしたような顔をした。俺の方が少し背が高いからフレッドは少しだけ見上げる形になっていた。

「スザンヌは優しいから、ボランティア精神でオタク野郎のお前のパートナーを申し出てくれているんだ。勘違いするなよ」