ってことは、よくスザンヌがフレッドの前で顔を赤らめていたのは怒りで赤くなっていたってことか? 俺はスザンヌは怒った顔も可愛いんだな、と場違いなことを考えて思わずニヤニヤしてしまった。

「ところで、ケビンさまったら私のこと忘れてましたわよね? 私と初対面だって言ってましたわ。私はケビンさまに再会するのを楽しみにしてましたのに」

 スザンヌがぷっくりと頬を膨らませる。
 俺は再会の日のことを思い出してちょっと焦った。だって、八年ぶりだし太さがちょっと、いや、だいぶ違ったし。普通わからないだろ!?

「ごめん、その……。すごく綺麗になっていたからすぐに気付かなかったんだ」
「まぁ」

 拗ねたように口を尖らせていたスザンヌは、俺の『綺麗』って言葉を聞くなり頬をピンク色に染めて恥ずかしそうに俯いた。

「私、ケビンさまが初恋だったんです。泣いている私の手をひいて下さるケビンさまが現れた時は王子様が現れたと思いましたわ」
「は、初恋?」

 こんな美少女が俺に初恋?
 嘘だろ??

 俺はつくづくあの日泣いていたスザンヌを蝶園に誘った自分の行動に感謝した。

 良くやった、幼き日の俺!!

「だから、再会出来るのを本当に楽しみにしていたのです。それなのに、ケビンさまったら覚えていて下さらないんだもの」

 隣を歩くスザンヌは正面を見たまま再びぷぅっと頬を膨らませた。

「本当にごめん」

 俺は足を止めた。眉尻を下げて謝罪する俺を、同じく足をとめたスザンヌはいたずらッぽい笑みを浮かべて見上げた。

「お詫びにお願い事を聞いて下さいませ」
「お願い事? 俺にできることなら……」

 お願い事ってなんだろう。ドレスを買って欲しいとか? うちは貧乏貴族ではないはずだが、俺の自由になるお金はあまりない。俺の手持ちで足りるといいんだけど……と少し不安を覚えた。

「『スザンヌ』って呼び捨てして欲しいです」

 俺は思いがけないスザンヌのお願い事に瞠目した。
 スザンヌは猫みたいな目で真っ直ぐに俺を見上げている。瞳が僅かに揺れていて、少しだけ不安そうだ。

「ス…スザンヌ」
「はい」

 スザンヌがにっこりと笑って嬉しそうに返事する。胸の内に何とも言えないこそばゆい感覚が生まれた。

「あと、――たいです……」
「え? なに??」