言ってから俺は後悔した。虫の世話が趣味って完全に気持ち悪い奴だ。けれど、スザンヌは嫌な顔一つせず相変わらずニコニコしていた。

「魔法蝶が光るところが見たいんだよね? 向こうに夕闇エリアがあるからそっちに行こう」
「はい。久しぶりに見るので楽しみです」

 スザンヌは猫みたいな大きな目をキラキラさせ、頬を紅潮させている。
 俺はそこら辺を飛んでいる蝶の説明をしつつ、スザンヌは夕闇エリアへと連れて行った。私服のスザンヌをエスコートしていることは、なんだか他のクラスメートを一歩リードしたかのような甘美な優越感を湧き起らせた。

「わぁ、凄い!」

 夕闇エリアに足を踏み入れた途端、スザンヌは感嘆の声を漏らした。
 夕闇エリアには様々な色の光輝く蝶が舞っている。薄暗い中でもわかるぐらい、スザンヌは目を輝かせていた。

「前は白一色でしたのに! サファイア色にエメラルド色にルビー色……」
「ちいさな頃に来た時も宝石みたいだって喜んでたよね」
「はい。本当に宝石みたいでとっても綺麗ですわ」

 スザンヌはうっとりとしたように蝶に手を伸ばした。蝶はそれから逃げるようにふわりと飛び、色とりどりの光が舞う。

「うん、そうだね」

 君の方が綺麗だよ、という歯の浮くような甘い言葉は脳裏に浮かぶだけで、流石に口に出しては言えなかった。
 騎士科のやつ、例えばフレッドだったら言えるんだろうか。目を輝かせて嬉しそうに笑うスザンヌは本当に綺麗で、すごく可愛かった。


「ケビンさま、実はお渡ししたいものがありまして」
 
 スザンヌは蝶園から出ると、持っていた自分の鞄をガサゴソと漁りだした。
 取り出したのは小さな袋で、白い布とピンクのリボンで可愛らしくラッピングされている。スザンヌはそれをおずおずと俺に差し出した。

「あの、もしお嫌じゃなかったらなのですけど……」
「なに? 開けてもいい??」

 何か貰えるなんて思っていなかったし、小さな袋の中身が何なのか全く見当がつかなかった俺はそれをその場で開けてみた。中を見て、俺は驚きで目を瞠った。

「これ……。自分で食べちゃったんじゃなかったの?」
「え? ケビンさま、あの言い訳が聞こえていらしたのですか? やだ、恥ずかしいわ」

 スザンヌはまた赤くなって両頬を手で覆った。
 そして上目遣いに俺を見上げた。