その日はいつもと変わらない普通の日だった。
 ただひとついつもと違う点と言えば、朝起きたら親父が先方がどうしてもと言っていると、二回も断ったはずのお見合い話をもう一度持ってきた事ぐらいだ。
 それは当然断った。

「姿絵くらいは見たらどうだ?」
「嫌だよ。面倒くさい」

 朝食のトーストを頬ばりながら、俺は三回目の断りを入れた。これだけしつこい相手だ。一度でも姿絵を見てしまったら最後、断れなくなりそうな気がしたんだ。

 親父は困ったように眉尻を下げたが、俺の意思を尊重してくれるようで手に持っていた釣書と姿絵の入った封筒を持っておずおずとダイニングルームを後にした。これから先方に断りの手紙を書くのだろう。

 俺の実家は先祖から引き継いだ子爵位をもっており、当主である親父は魔虫研究所の所長をしている。ちなみに領地はなく、名ばかり子爵だ。

 そしてこの俺は極めて平均的な出で立ちをしている。
 どれくらい平凡な男かということを、これから説明しよう。

 まず、名前はケビンだ。この『ケビン』と言う名前は平均的な奴の代名詞のような名前だ。恐らく、男が十五人居たら最低一人は『ケビン』がいる。両親も随分とありふれた名前を付けてくれたもんだ。俺が極めて平均的な奴になると生まれた時に予見していたのだろうか。

 見た目はたぶん中の下だと思う。下の中……ではないと信じたい。背は高めだけど、痩せているからひょろひょろしている。黒く短い髪は手入れしないからいつも寝癖が付いてる。

 眼鏡は金縁瓶底でお洒落眼鏡とは程遠い。学校の成績は上の下、趣味は魔虫の飼育。つまり、ちょっと周りからは引かれるようなオタクな趣味だ。
 これが魔法球技とか、弓矢とか剣とかだったら女子受けが良いんだろうな。しかしながら、俺は魔法球技も弓矢も剣も好きじゃない。体型もひょろひょろしているしな。運動は苦手というほどでもないが、とにかく好きじゃないんだ。

 クラスの中では目立たない、ひっそりと席に座って友達と喋ってるタイプだ。
 当然、俺の彼女いない歴=年齢だ。とは言っても、俺はまだ十六歳だから、これから出来る可能性はあると希望は捨てていない。
 モテる騎士科の奴らは彼女もちが多いけれど、俺みたいな彼女いない歴=年齢の奴らもクラスにはまだ沢山いる。