「東先生が、この結界を解いてくれると、ありがたいんだけどな」

「それは無理だ」

倒れている俺を、表情のない顔で見下ろす。

「幸か不幸か、お前のいるお陰で、涼介の周りにヘタな低級妖魔の類いは寄ってこないが、学校となると話しは別だ。俺が結界を張っていないと、余計な邪魔が入る」

胸が苦しいのは、なんとかなる。

問題は、この強力な結界の方だ。

「涼介が死んだ時に、飛び出した魂を守ろうと思えば、こうするより仕方がない」

「……お前、やっぱ最低だな」

涼介の顔色が悪い。

バカな天使から、余計なことを聞いたせいだ。

「し、獅子丸さま……」

かすれた声が聞こえた。

スヱが階段を上ってくる。

倒れていた俺の腕を肩にかけると、スヱは立ち上がった。

アズラーイールは、驚きの声をあげる。

「お前、どうやってここに入ってきた!」

俺は息をするだけでも、今は精一杯だ。

「スヱさん!」

スヱは、荒い呼吸を整える。

「に、人間の死を……、一つ、受け入れたうえに、この結界のなかでは……、さすがの獅子丸さまでも、不利です。私も……長い時間は、持ちません。獅子丸さまを、連れて出ます」

スヱは、俺の体を持ちあげた。

従属として迎え入れた覚えはないが、まぁそういうことになってしまっているのだろう。

身に覚えはある。

スヱは外見を保つのが精一杯で、泥臭い腐臭を放ち、足元にはそのヘドロをまき散らしていた。

アズラーイールを見上げる。

ここで攻撃してくれば、俺は一旦、魔界に引き上げざるをえない。

「これで、あの天使の借りを返したつもりか」

「何の話しだ」

アズラーイールは、ため息をつく。

俺はスヱに引きずられるようにして、結界の外へ出た。