「くそ、この結界が邪魔だな」

「あの天使を、何とかして下さいよ」

「あぁ、もちろん、そうするつもりだ」

透視の能力で、校舎の中を探る。

階段を上る涼介の背中が見えた。

その涼介は、突然階段の途中にうずくまる。

周囲を歩く複数の生徒が、不安そうにその顔をのぞき込んだ。

涼介の魂に、墨を一滴垂らしたような、黒い影が差す。

「涼介!」

瞬間的にそこに移動しようとして、結界の壁に阻まれる。

俺は走り出した。

肌が灼ける。

手足が思うように動かせない。

どろりとした液体の中を、かき分けて進んでいるようだ。

校舎の階段を駆け上がる。

「涼介!」

「し、獅子丸……」

涼介の手が、俺の腕をつかんだ。

俺は、涼介の胸に手をあてる。

「心臓か!」

その痛みと苦しみを、我の元によこせ! 

そう命じた瞬間、俺の胸は締め付けられたように痛み、呼吸は困難になる。

おかしな汗が、全身から吹き出した。

「獅子丸!」

あまりの苦痛に、体が崩れ落ちる。

涼介の手が、俺の背中に触れた。

俺は自分の胸に手を突っ込むと、その荒れ狂う心臓をつかみ、取り押さえる。

「大丈夫だ、涼介。俺はそう簡単には、死なない」

呼吸を一つ。

自分の心臓くらい、自分でコントロールできないでどうする。

見上げるとそこには、アズラーイールが立っていた。