涼介はいつものように、同じ時間に起きて、同じように学校に行く準備を始める。

「なぁ、涼介。お前が死ぬまでにやってみたいことって、なんかある?」

俺がそう聞いたら、涼介は笑った。

「え、なんだろう。死んだら漫画の続きは読めないし、新作ゲームも出来なくなるから、まだ死ぬ気はないんだけど」

そう言って、日課となっている弟の遺影を前に、手を合わせる。

「これ以上、父さんと母さんも、悲しませたくないし」

涼介にとっての義弟が、どのようにこの世を去り、どうして一人で墓参りを続けているのか、どうして両親についていかなかったのか、それを聞くつもりはない。

そんなことは知らない。

俺は涼介が、死んだ猫を生き返らせろと言っていたことを、思いだしていた。

「世界一周とか、高級ホテルで豪遊するとか、カジノで遊びまくるとか」

「あー、そういうの、あんまり興味ないんだよね」

「どうして?」

「やったところで一瞬で終わるし、後に何にも残らないからね」

「銀行強盗とか、学校爆破とか」

「漫画かよ」

「やってみたいと思ったことは?」

「ないわけじゃないけどさ、もう行くよ」

制服に着替え、鞄を持った涼介は、俺に登校するように促す。

「いま一番やりたいことは?」

「学校に行くこと。できれば獅子丸と一緒に」

俺は立ち上がった。

涼介と一緒に外へ出る。

いつもの道をいつものように、並んで歩いた。