教室に入ったとたん、俺は男女を問わず、大勢の人間に囲まれ質問攻めにあう。

にこやかに適当なウソを並べて、俺はすっかりクラスの人気者だ。

涼介はそんな俺の姿を、教室の隅っこでイライラしたようにながめている。

どうだ、この俺さまの魅力は。

普通の人間は、みんなこういう反応をするものなんだぞ。

体育の授業ではあらゆる相手選手を無双し、学科の授業では、全ての問題に完璧に答えてみせる。

昼休みには友達になりたい、なってくれと次から次へと申し込まれ、一緒に食事をしたいという連中が群れてやまない。

すでに机にはプレゼントと手紙の山が出来ている。

俺はそいつらを全て無視して、教室の隅にすわる涼介の前に座った。

「どうだ。今のこの俺の立場を、すっかりそのままお前に譲ってやろう。俺と契約を交わした瞬間から、お前は何の不利益を被ることもなく、そうなれる」

涼介は小さな弁当箱に詰められた、貧相な食事を口にした。

俺は三重の重箱に詰められた、豪華な弁当を目の前に広げる。

「ほら、全てお前のものだ。遠慮なく食え」

「いらない」

涼介は、食べ終わった小さな弁当を片付けた。

「自分で食えよ」

俺はすぐ横で見ていた人間の一人に声をかけ、弁当を皆で食べるように手渡す。

受け取った人間どもは、奪い合うようにそれを口にし、うまいうまいとほめたたえた。

「毒もなければ、それを口にしたところで、なにか洗脳のような作用があるわけでもない。俺は確かに悪魔だが、お前を騙そうとしているわけではないんだ」

涼介はため息をつく。

「ほしくないわけじゃない。だけど、いらないって言ってるんだ。お前も本当に悪魔なんだったら、早く自分の世界に帰った方がいい」

「なぜそう思う?」

「……俺の望みは、悪魔には叶えられないからだ」

そう言って見上げる涼介の目に、強い光が宿る。

なんだコイツ。

悪魔に叶えられない人間の望みなんて、あるわけないだろう。