悪魔公爵鷲頭獅子丸の場合

画面に向かって座り直すと、涼介は手元だけを動かして、淡々と相手を打ちのめしていく。

それは涼介にとって、単調な作業のようなものだった。

3回の勝負を圧勝で終えると、すぐに立ち上がった。

「もう出よう」

「え、でも、まだコイン残ってるよ」

「行くぞ」

涼介は残っていたコインをつかむと、それをポケットに突っ込んだ。

対戦相手の、20代後半と思われる男が涼介に駆け寄る。

男は涼介に何かを話しかけ、涼介は手を差し出した。

男は感動したようにガッツリとそれを握りしめたが、涼介はすぐに店を後にする。

店の外に出ると、新鮮な夜の空気が体に染みこんだ。

「楽しかった?」

そう聞いたのに、涼介からの返事はなかった。

自転車にまたがる。

「楽しかった?」

「楽しかったよ。ゲーセン来るのも、久しぶりだったし」

「お前が来たいかと思ったんだ」

「そんなことまで分かるんだ。やっぱ獅子丸は凄いね」

涼介は、目も合わさずにそんなことを言う。

本当は、ゲームとか対戦とか、ましてや勝負とか、そんなことはきっと、どうでもよかったんだろうな。

意味がないってことを、涼介も俺も、ちゃんと知っていた。

人の増え始めた繁華街の人混みを、俺たちは進んでゆく。

近くの大型商業施設に入って、そこのフードコートで夕食を食べた。

二人でテーブルを挟み、どうでもいいようなくだらない話しで盛り上がる。

涼介は笑い転げていて、俺も一緒に笑った。

油にまみれたジャガイモが、初めてうまいと思った。

「もうすぐ、あのゲーセンが潰れるって、聞いてたんだ」

ふいに涼介は言った。

「だから、最後に来られて、よかった」

俺は涼介のその言葉に、少し安心する。

「出来れば、行きたくなかった。だけど、行けてよかった」

あの場所は、涼介にとって、特別な場所だった。

あの霊園がそうであるように、あの喧噪も、その頃の涼介には、必要なものだった。

視界の隅に、男の影が入った。

山下だ。