「帰りは、ゆっくり帰ろう」

自分以外の、人の食べる弁当を作ったのは、初めてだったんだって。

俺たちは霊園を後にした。

行きには分からなかった道も、帰りなら分かる。

俺はのんびりと走る涼介の隣に並んでいた。

午後からはよりいっそう曇りがちな天気で、少しばかり肌寒い風が吹く。

「どっか、寄ってく?」

涼介がふいにそんなことを言ったのは、俺が確実にそれを断るという前提でのもとだったのだろう。

いつも誰かに何かを誘われても、ここではその全てを断ってきた俺だ。

何の感情も意味もなくただ発しただけのその音の羅列を、俺は逃しはしなかった。

「いいだろう、どこへ行く?」

「え、本当に?」

「お前が言い出したんだ。どこがいい? 俺はどこでもいい」

「お、俺も、どこでもいい」

「じゃあ、ついてこい」

俺は自転車のハンドルを急旋回させる。

もう家は目の前だった。

特にどこかと決めていたわけではなかったが、俺はヒトのエネルギーを嗅ぎとる。

「こっちだ」

住宅街から、繁華街に入り込む。

ごちゃごちゃとした看板が並ぶ裏路地の一角に、ゲームセンターがあった。

「ここに行こう」

「え? 獅子丸は、アーケードゲームがしたかったの?」

ガラスの扉が、自動で開く。

一歩そこへ踏み込むと、休日の午後とあってか、たくさんの人間であふれかえっていた。

狭い空間に押し込められた、むせかえるような息と、こびりついた古い体臭、煙草の臭いも混じる。

鳴り響く電子音が、ひしめきあっていた。

「本当に、ここなの?」

「悪いか」

「いや、別にいいけど」

ぐるりと周囲を見渡す。

同じ場所にたくさんの人間が集まっていても、みんなそれぞれが違う画面に向き合っていて、会話はない。

時折知り合い同士のような者が、ぼそぼそと挨拶のようなものを交わす程度だ。

ここには、涼介の古い思念が残っている。

「どうすればいいんだ?」

そう言うと、涼介はカウンターでコインを買った。

「これで、遊ぶんだよ。勝てば増える」