「死んだら結局、何の意味もないな」

「だから俺は、生きてるのかもね」

外野が再びやかましく叫び始めたので、俺はもうここの霊魂どもをまとめて吹き飛ばした。

弟も、さすがにそれにはビビったらしい。

大人しく腰を下ろす。

「そりゃそうだ。生きてる方が勝ちだからな」

「生きてる方が勝ち、か。そんな風には、考えたことはなかったけどね」

涼介は食べ終えた弁当の蓋を閉じた。

「俺も、死のうと思ったことはあるよ。本気で。だけど出来なかったのは、勇気がなかったんだと思ってる」

俺は冷めたコーンクリームコロッケを、口に入れた。

「どうして?」

「なんでだろうね。地獄で弟と顔を合わすのが、嫌だったのかも」

涼介は笑う。

「どうして地獄へ行ったと思う? 天国じゃなくて」

「さぁね。そうだな、地獄じゃないかもね、きっと天国で、のんびり過ごしてるよ」

俺は涼介に手を伸ばした。

その手を涼介は、不思議そうにみていたが、すぐに気がつく。

「あぁ、なに? 俺に触りたいわけ?」

涼介の手が、俺に触れた。

俺はその手で、傷ついた涼介の手を見せる。

「わ、怪我してるの、気づかなかった」

俺はそこに、意識を集中する。

既に血は止まり、こびりついていた赤い血栓が出来ていた。

それがぽろりと剥がれ落ちると、すっかりきれいになった、傷跡もない涼介の肌が現れる。

「なんだよ、獅子丸は悪魔のくせに、治療も出来るの?」

「俺に出来ないことはない」

「はは、嘘つき」

「一緒に地獄へ行こうと言っている」

「それは遠慮するよ」

涼介は、静かに微笑んだ。

「俺はやっぱり、天国の方がいい」

涼介は笑う。

季節外れの冷たい風が吹いて、俺はくしゃみを一つした。