冷たい石が、規則正しく並んでいる。

よく手入れの行き届いたそこには、余分なものは何一つなくて、余計なものしか、必要とされていなかった。

涼介はその中を、真っ直ぐに歩いて行く。

やがてその石群を抜けると、林の中の一本の木の前で立ち止まった。

その木の周囲は丁寧な芝で覆われていて、縁を飾るように、色とりどりの花が添えられている。

「今日は、弟の命日なんだ」

涼介は、その背に背負っていたリュックから、いつも家に漂う香を焚いた。

手を合わせ、目を閉じる。

「こんなところに、俺を連れてくるな」

「そう言うと思ったから、黙ってたんだよ」

涼介は立ち上がり、何もない芝生の一点を見つめる。

「弟に、獅子丸を会わせたかったんだ」

ここは聖域だ。

ある意味、俺のような大悪魔が、立ち入っていい場所ではない。

狭い区画に無理矢理詰め込まれた、無数の死者たちの眠りを、妨げてしまったようだ。

10歳になるかならないかのような少年が、涼介の見つめる目の前に立っている。

「弟は、きっと獅子丸のことを、気に入ると思うよ」

「そうかな」

見えないということは、都合のいいもので、俺は口をつぐんだ。

なにも出来ない死者たちなどに、怖れることは何もない。

「だといいな」

涼介は静かに微笑む。

俺は弟から視線を外した。

騒ぎ出したその他大勢の霊魂を、ひとにらみして一喝し、黙らせておく。

成仏した霊でも、もう一度叶えたい願いは、いくらでもあるらしい。

「嫌われるのは、得意なんだ」

「なんのこと?」

「いや、なんでもない」