ふいに小石か何かに乗り上げた俺は、バランスを崩しふらついた。

「危ない!」

涼介の手が伸びる。

接触した俺たちは、その場に転倒した。

「痛って、なにやってんだよ!」

「大丈夫か、獅子丸」

涼介は立ち上がり、倒れた自転車を戻す。

俺に手を差し出し、助け起こした。

俺は服についた小石を振り払い、涼介は自転車の点検を始める。

「よかった。自転車も無事だ」

その涼介の手からは、血がにじんでいた。

俺はそれに、なぜか無性に腹が立つ。

涼介は、自分をいつも後回しにしていることに、気づいていないんだろうか。

「もう疲れたし、腹減った。休憩にして、弁当食おうぜ」

「ゴールに着くまで弱音を吐くなっていっただろ、まだダメだ」

涼介は、自転車にまたがる。

俺はその傷ついた手をつかもうとして、手を伸ばしかけて、やめた。

俺からは、触れられない。

「どこに向かっている。あとどれくらいだ。それが分からないことには、先に進めない。俺はもう疲れたと言っているんだ」

土手に座り込む。

きっとそうしなければ、自分の傷にも気づかない。

涼介はそんな俺を見て、何かを言おうとして、やめた。

「……。じゃあ、いいよ。一人で行く」

自転車を押して、歩き出す。

「教えろって言ってんだ! 行くのが嫌だとは言ってない!」

「だから、もういいって」

涼介は自転車にまたがった。

俺に背を向けたまま走り出す。

「なんでここまで来て、もういいとか言うんだよ」

俺も自転車にまたがる。

涼介がこんなに頑固な分からず屋だとは思わなかった。

「俺だってここまでせっかく来たんだ。お前につき合って来たんだから、最後まで責任持て!」

俺は思いっきり、ペダルに体重をかける。

あっという間に涼介に追いつくと、俺はその進路を妨害した。

涼介は急ブレーキをかけ、無言のまま進路を変える。

そんなことを数回くり返した後で、ようやく涼介は怒った。

「邪魔だ!」

「ワザと邪魔してんだよ! そんなことも分かんないのか!」