玄関の脇には、この家には似つかわしくないほど、立派な自転車が置かれていた。

「お前はこれに乗るのか?」

「そうだよ。獅子丸の分は、近くの自転車屋に借りに行こう」

「その必要はない」

全く同じ物を、魔法で取り寄せる。

俺たちは、ほぼ同じような格好で、同じ自転車にまたがった。

「なんか、仲良し兄弟みたいだな」

涼介はそう言って笑ったけど、俺にはそうは思えない。

「兄弟ではない。血のつながりはない」

友達だ。

と、言おうと思って、やめた。

「獅子丸、途中で飽きたとか、疲れたとか、弱音吐くなよ」

「誰がお前なんかに負けるもんか」

こぎ出した涼介の後を追う。

俺には目的地が分からないままの、ロングライドだ。

涼介が指を指す方向に向かって、自転車をこぐ。

どこに向かっているのかは、教えてくれなかった。

「それは到着してからのお楽しみ」

自転車は市街地を抜け、山の方へと向かっていく。

この川沿いにしばらく進むというから、俺は涼介を追い越した。

「じゃあ、こっから競争だ!」

フェンスで区切られた、小さな歩道を全力で駆け抜ける。

自転車二台がようやく並んで走れる程度の道幅だ。

サドルから腰を浮かせて、全速力で駆け抜ける。

空は青くどこまでも澄み、向かう風は心地よかった。

涼介と二人、ワイワイと言い合いながら、追いつ追われつをくり返す。

いつの間にか、背中にじんわりと汗が浮かんでいた。

「あぁ、たまにはこういうのもいいよな」

上り坂を終えて、緩い下りに入った。

俺は両足を真っ直ぐに伸ばして、車輪のおもむくままに任せる。

隣を走る涼介も、同じようにした。

ぐんぐんスピードは加速していき、風が頬をなでる。

俺たちは顔を見合わせ、にっと笑う。

こういう人間界の空気は、悪くない。